AI用アクセラレータ・カードに最適な電源システム【Part 2/3】AIの消費電力が引き起こす嵐を鎮める

AI用アクセラレータ・カードに最適な電源システム【Part 2/3】AIの消費電力が引き起こす嵐を鎮める

著者:HamedSanogo

アナログ・デバイセズは、AI用のアクセラレータ・カードを対象とする電源技術で業界をリードしています。単に最新のAIに関するニーズに応えるだけでなく、効率、密度、信頼性の面で可能性を再定義する電源ソリューションを開発しています。連載記事「AI用アクセラレータ・カードに最適な電源システム」のPart 2である今回は、その舞台裏を紹介しましょう。

マルチフェーズによる革命 - 混沌から制御下への移行を実現する

電流サージの急増、電圧の急激な低下、温度の急上昇といった状況に直面した場合、どのように対処すればよいのでしょうか。そのような状況には、古くから使われている大型の電圧レギュレータ単体では対応できません。そこで利用されるようになったのが、マルチフェーズ動作(多相動作)に対応する電圧レギュレータのアーキテクチャです。このアーキテクチャでは、並列に配置した複数のパワー段を密に連携させます。具体的には、それぞれを異なる位相で動作させることにより、負荷に供給する電流を均等に分担するようにします。その結果、急激な変化にも対応することが可能になります。この動きは、「息の合ったダンス」に例えることができるでしょう。

この方法により得られる主なメリットについてまとめると、以下のようになります。

  • 超高速な過渡応答:多相動作に対応する電源は、マイクロ秒のレベルで反応を示します。電流に対する急激な需要の変化に対応し、致命的な問題につながりかねない電圧の急降下やスパイクを平滑化するように機能します。
  • 高い効率:多相動作によって負荷を分散することで、トータルの損失を削減できます。その結果、発熱量を増大させることなく、より多くの電流を供給することが可能になります。
  • スケーラビリティ:次世代のAIに対応するASICを導入したので、より多くの電力を供給しなければならなくなったとします。その場合にも、消費電流の増加量に応じて相数を増やすことで電源システムの規模を容易に拡大できます。その際には、電源システムのすべてを再設計する必要はありません。

アナログ・デバイセズの新たなソリューションは、集積度の高いIC、高度な制御用アルゴリズム、独自の革新的な結合インダクタ(CL:Coupled Inductor)を組み合わせることで実現されました。それにより、上記のレベルを上回るメリットを享受することが可能になっています。

“ヒーローたち”の実像

アナログ・デバイセズは、マルチフェーズに対応する各種の電源ICを提供しています。なかでも重要なものとして、本稿では上記のソリューションで使用している2つの製品を紹介します。1つは、マルチフェーズに対応するコントローラIC「MAX16602」です。このICは柔軟性に優れる強力な製品であり、最大16相の並列制御を実現できます。高度な変調方式を採用しており、各相における出力電力はほぼ瞬時に立上がり/立下がります。各相の動作は完全に同期しており、AIの処理に関連して絶えず変化する電力需要に動的に対応します。もう1つの製品は、モノリシック型のスマート・パワー段IC「MAX20790」です。このICは、パワーMOSFET、ドライバ、高精度の電流検出回路を内蔵しています。また、超小型のパッケージを採用しています。ディスクリート構成の設計とは異なり、寄生素子に起因する遅延や無駄な熱を最小限に抑えられます。内蔵するフォルト保護回路とコントローラICが直接通信できるようになっているので、よりスマートで安全なシステムを実現できます。

 An 8-Phase VR Design with High Integration Power Chipsets Facilitates a High Density Design with Less External Connections

図1. 8相に対応する電圧レギュレータの設計例。集積度の高いチップセットを採用することにより、外部接続の数が少ない高密度の設計を実現できます。

動的負荷ライン制御 - 電圧の変動に対する秘密兵器

AIに対応するためのPoL(Point of Load)コンバータの設計には、究極の目標があります。それは、大規模で高コストな出力コンデンサ・バンクを使用することなく、電流の大きな変動に対応できるようにすることです。ここでは、そのための方策を紹介します。その技術は、動的負荷ライン制御(Dynamic Load Line Control)と呼ばれています。

MAX16602は、動的負荷ライン制御の機能を備えています。その機能により、同ICは負荷に応じて出力電圧を自動的に調整します。それにより、GPU(Graphics Processing Unit)やTPU(Tensor Processing Unit)に供給される電圧が安全な許容動作電圧の範囲内に維持されます。例えば、負荷が軽いときには出力電圧を高めに維持します。また、電流が急増したときには必要な範囲内で出力電圧を低下させます。この機能により、以下のようなメリットが得られます。

  • 出力電圧の変動を最小限に抑制:例えば、負荷電流が40Aから360Aへステップ状に変化しても、出力電圧はほとんど変動しません。
  • 障害の防止が可能:動的負荷ライン制御によって出力電圧の値を決めることにより、xPU(GPUやTPU)の電源電圧が最小値から最大値までの範囲内に維持されるように制御されます。つまり、過電圧や低電圧のリスクが大幅に軽減されます。
  • コンパクトな設計:大容量のコンデンサの必要性が低下します。そのため、小型で密度が高く、発熱量の少ないプリント回路基板を実現できます。

 Transient Plot of a 16-Phase VR for 40 A to 360 A Step Load at 800 A/µs Slew Rate

図2. 16相に対応する電圧レギュレータの過渡応答。負荷電流を800A/マイクロ秒のスルーレートで40Aから360Aまでステップ状に変化させた場合の結果です。

革新的な結合インダクタ技術、10年の歳月をかけて実現

アナログ・デバイセズの結合インダクタは、性能をわずかに高めるための調整用の技術ではありません。定常状態と過渡的な状態の両方を対象として負荷を管理することを可能にする革新的な技術です。結合インダクタは、定常状態では値の大きいインダクタンスとして振る舞います。つまり、安定した状態においてはエネルギーの効率的な伝達を実現するコンポーネントとして機能します。一方、過渡的な状態ではインダクタンスが大幅に低下します。そのため、電力サージが発生した際には、通常のインダクタよりも高速な反応を示します。ディスクリートの磁性部品と比較すると、効率が50%向上し、物理的なサイズがほぼ1/2になります。また、より優れた電流リップル除去性能が得られます。以上のことから、結合インダクタを使用すれば、AI用のアクセラレータ・カードに最適な、精度と信頼性に優れる電源システムを設計できます。

 A Series of Coupled Inductors Commonly Used with ADI Multiphase VR Designs

図3. アナログ・デバイセズが開発した結合インダクタ。マルチフェーズに対応する電圧レギュレータの設計で一般的に使用できます。

上面冷却型パッケージによる熱対策

高密度のパッケージを採用したICに大電流が流れる場合、熱の制御が極めて重要になります。MAX16602とMAX20790は、上面に露出した放熱パッドを備える先進的なパッケージを採用しています。それにより、チップから外気に対して直接放熱できます。その結果、動作温度を低く抑えられます。また、密度の高い設計が可能になります。更に、ハードウェアの寿命を延ばすことができます。

実測による性能の証明

ここまで、アナログ・デバイセズのソリューションについて文章で説明してきました。その長所を実感するには、実際にその性能を目にするとよいでしょう。そこで、ここでは実測評価の結果を示すことにします。図4に示したのは、16相の電圧レギュレータを実装した評価用ボードを使用して効率を評価した結果です。この電圧レギュレータを400kHzのスイッチング周波数で動作させれば、クラス最高レベルの効率で最大350Aの電流を供給できます。

Efficiency Plot of a 16-Phase AI VR Evaluation Board Design

図4. 16相の電圧レギュレータの評価結果。評価用ボードを使用し、AI用のアクセラレータ・カード向けに設計した回路の効率を評価しました。

まとめ - AI用アクセラレータに給電するための「イージー・ボタン」

本稿では、アナログ・デバイセズが提供するマルチフェーズ対応のコントローラIC、モノリシック型のスマート・パワー段IC、革新的な結合インダクタを紹介しました。これらは、単にAI用のアクセラレータ・カードの要件に対応するためのものではありません。そうではなく、確信を持ってイノベーションを進めるために電源供給の役割を担ってくれるパートナーだと言うことができます。このプラットフォームを利用すれば、電圧トランジェントを適切に管理したり、密度を最大化したりすることが可能になります。それだけでなく、推測に頼ることなく、AI関連の極めて過酷なワークロードからxPUを保護することができます。

次回(Part 3)は、今後の展望について俯瞰していきます。具体的には、プリント回路基板にパラダイム・シフトをもたらす可能性のある革新的な垂直給電のソリューションなどを紹介します。

本稿の内容に関する詳細については、技術記事「AI用のアクセラレータ・カードに対する給電方法、トランジェントの影響を回避する」をご覧ください。

また、本連載「AI用アクセラレータ・カードに最適な電源システム」のすべての記事にはこちらからアクセスしてください。

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