先進的なパッケージ技術とスルー配線ピンにより、スイッチのチャンネル密度を高める

先進的なパッケージ技術とスルー配線ピンにより、スイッチのチャンネル密度を高める

著者:BrenS

電子計測システムなどでは、チャンネル密度を増大しつつ高い精度を実現することが求められます。そうしたシステムのプリント基板設計に対し、1つのスイッチICが革命をもたらそうとしています。そのICによってもたらされるのは単なるブレークスルーではありません。新たな時代の幕が開くと言ってもよいでしょう。そのICを採用すれば、実装スペースの制約によって創造性が損なわれることを回避しつつ、精度と効率を高めることが可能になります。

本稿で紹介するのは「ADGS2414D」というスイッチICです。この製品は、SPI(Serial Peripheral Interface)によって個々に制御することが可能な8個のスイッチを備えています。それに加え、受動部品も内蔵しています。ここに同ICの革新性があります。ICパッケージ内に抵抗とコンデンサが取り込まれていることから、実装スペースの面でこれまでにないレベルのメリットを享受できます。このアーキテクチャにより、基板上の実装面積を最大80%も削減することが可能になります。そのため、スペースに関する制約が厳しいアプリケーションにとって理想的なソリューションだと言えます。

また、ADGS2414Dにはスルー配線ピン(Route Through Pins)という技術も適用されています。これは、基板設計を担当する技術者にとって画期的なソリューションです。スルー配線ピンを利用すれば、スイッチで使用する電源/SPI信号の配線パターンを効率的にルーティングできます。例えば、ビアを追加したり、複雑な配線構造を適用したりする必要はありません。それにより設計の複雑さが軽減されるだけでなく、スイッチのチャンネル密度を大幅に高められます。つまり、よりコンパクトで性能の高い設計を実現可能だということです。

ADGS2414Dは実装スペースの節約に役立つだけでなく、性能の面でもメリットをもたらします。特に、オン抵抗がわずか0.5Ωほどに抑えられている点に大きな特徴があります。この特性は、システムで測定が行われる場合、その精度の向上に貢献します。また、大電流を扱うアプリケーションの場合、オン抵抗が小さいことは発熱量を最小限に抑えるための重要な要件になります。加えて、スイッチのオン抵抗が小さければ、信号の完全性と精度を高められます。これは、自動試験装置や高精度の計測/制御システムといったアプリケーションにとって非常に重要なことです。更に、スイッチのオン抵抗が小さければ、熱抵抗も改善されます。つまり、条件が様々に変化する動作環境でも、信頼性と一貫性を維持した状態で高い性能を発揮できるということです。

チャンネル数を最大化する上での課題 

システムを設計する際、チャンネル数の最大化が1つの目標になるケースがあったとします。その場合、基板上のスペースは貴重な資源だと言えます。スイッチは、システムのチャンネル数を増やす上で重要な役割を果たします。ただ、スイッチの数が増えるにつれて、基板上のスペースという貴重な資源も着々と消費されていくことになります。スイッチそのものだけでなく、制御に必要なロジック・ラインや受動部品など、実装すべき要素の数が増えていくからです。スイッチ以外の要素によっても実装スペースが費やされることから、結果として実現できるチャンネル数が限られることになります。

従来のスイッチ・ソリューション 

チャンネル密度を高めるために、一般的に使用されている手法があります。それは、ロジック用のインターフェースとしてSPIを用いるスイッチICを採用することです。そのような製品の例としては、8チャンネル(オクタル)を備える「ADG1414」が挙げられます。パラレル・インターフェースと比べた場合、そのアーキテクチャには実装スペースの面で優位性があります。なぜなら、実装に必要なGPIO(General-purpose Input/Output)のラインは4つだけであり、標準的なマイクロコントローラのSPIポートを1つ使用するだけで済むからです。また、デイジーチェーン機能を使用できるスイッチICも有用です。そうした製品を採用すれば、すべてのスイッチを同時に制御できるようになるからです。この機能は、数多くのスイッチを搭載するシステムに大きなメリットをもたらします。

ここで図1をご覧ください。この例では、デイジーチェーン・モードで動作する25個のADG1414によって200個のLEDを制御します。ADG1414を適切に動作させるためには、外付け部品を用意しなければなりません。具体的には、1個のADG1414に対して、3個のデカップリング・コンデンサと1個のプルアップ抵抗が必要です。したがって、図1の例では計125個の部品を配置しなければならないということになります。そのため、約2600mm2もの実装面積が費やされています。

  PCB layout example showing 25 x ADG1414 devices

図1. 25個のADG1414を実装したボード

先進的なパッケージ技術 

図2に示したのは、革新的な製品であるADGS2414Dの内部構造です。ご覧のように、同ICのパッケージ内には受動部品が実装されています。これにより、実装スペースの節約という面で比類のないレベルのメリットが得られます。ADGS2414Dが内蔵しているのは、VDD、VSS、RESET/VLの各電源ピンに付加するデカップリング・コンデンサです。また、SDOピン用のプルアップ抵抗も内蔵しています。つまり、デカップリング・コンデンサもプルアップ抵抗も外付けする必要がないということです。それに加え、ADGS2414Dでは、スイッチ回路を集積した複数のダイがスタックされています。その結果、フットプリントが小さく抑えられ、4mm × 5mmのLGAパッケージの使用が可能になっています。

  ADI’s innovative stacked triple-die solution

図2. アナログ・デバイセズの革新的なパッケージ・ソリューション。
3つのダイをスタックすると共に、受動部品も内蔵しています。

スルー配線ピン

システムで多くのADGS2414Dを使用する場合には、スルー配線ピンが役に立ちます。スルー配線ピンは、電源ラインやデジタル・ラインをデバイス間で容易に配線できるようにするものです。これを活用すれば、チャンネル密度を高めつつ、レイアウトをよりコンパクトにすることが可能になります。

ADGS2414Dには、VDD、RESET/VL、GNDの各電源ラインと、SCLK、CS、SDI、SDOの各デジタル・ラインが存在します。これらについては、パッケージの上辺と下辺に対向する形で同名のピンが用意されています。これらのスルー配線ピンを利用することにより、基板上のルーティングが簡素化されます。また、複数のADGS2414Dを相互に接続する場合でも、ビアを使わなくて済むケースが増えるはずです。図3に示したのは、ADGS2414Dのスルー配線ピンを利用した例です。この例では、デイジーチェーン・モードで同ICを4個使用しています。スルー配線ピンを使用して配線を行うことで、基板上の実装スペースを最小限に抑えています。受動部品の内蔵によって得られる効果も相まって、プリント基板の面積を大幅に削減することが可能になります。

  PCB layout example using of the Route Through Pins

図3. スルー配線ピンを利用した基板レイアウトの例

ADGS2414Dによって得られる具体的な効果

先述したように、図1に示した一般的なスイッチ・ソリューションでは計125個の部品を配置する必要があります。そのため、実装面積は約2600mm2に達していました。

一方、ADGS2414Dは8チャンネルを備えることに加え、革新的なコパッケージング(co-packaging)技術とスルー配線ピンを採用しています。同ICを活用すれば、はるかに実装密度の高い新たな基板設計を実現できるようになります。ここで図4に示した例をご覧ください。このボードでは、図1の例と同様に、25個のADGS2414Dによって200個のLEDを制御します。この場合にも、デイジーチェーン機能を使用することで、すべてのADGS2414Dを同時に制御することができます。特に注目すべきは、ボード上に受動部品が存在しないことです。このことから、各ADGS2414Dの間隔を1mm(代表値)に設定し、近接した状態で配置することが可能になっています。この設計では、25個のADGS2414Dを配置するために約800mm2のスペースしか使用していません。つまり、図1のボードと比較して、実装面積を70%削減できるということです。節約できるのはスペースだけではありません。図1の例とは異なり、計100個の受動部品が不要になっています。そのため、製造コストを大幅に削減できます。また、部品点数の削減は製品の品質と信頼性の向上にもつながります。

  PCB layout example showing 25 x ADGS2414D devices

図4. 25個のADGS2414Dを実装したボード

小さなオン抵抗がもたらす効果

ADGS2414Dを使用すれば、実装スペースを削減できます。それだけでなく、同ICには、オン抵抗がわずか0.5Ω(代表値)に抑えられているという大きな特徴があります。そのため、システムが備える測定用のシグナル・チェーンで生じる電圧降下(I × R)を最小限に抑えられます。結果として、システム・レベルの測定精度が向上します。チャンネル密度が高いアプリケーションでスイッチの精度が向上するということは、チャンネル間のばらつきが小さくなるということを意味します。また、キャリブレーションのサイクルを削減することが可能になります。更に、コストを低減できるだけでなく、製品の出荷テストにおける歩留まりが向上します。

ADGS2414Dのスイッチング電流は、チャンネル当たり最大850mAです。非常に多くのスイッチング電流を扱う必要がある場合、この能力は非常に有用です。ただ、チャンネル密度の高いアプリケーションでは、熱の管理が課題になる可能性があります。つまり、スイッチの電力損失によって発生する熱が問題になるということです。この問題も、スイッチのオン抵抗が小さければ軽減されます。電力損失(I2 × R)によって生成される熱の量を削減できるからです。オン抵抗が小さいことにより、システム内の温度の安定性が確保され、過熱の問題を回避することが可能になります。

デイジーチェーン・モード

ADGS2414Dはデイジーチェーン構成を実現できる製品です。図5に示したような形で複数のADGS2414Dを接続することができます。この例では、すべてのADGS2414Dが同じCS、SCLK、VLのラインを共有します。また1つのADGS2414DのSDOを次のADGS2414DのSDIに接続することで、シフト・レジスタが形成されます。このように回路を構成した上で、16ビットのSPIフレームを1つ使用し、すべてのADGS2414Dに対してデイジーチェーン・モードに移行するよう指示します。このモードでは、SDOの信号はSDIの信号が8サイクル遅延したものになります。それにより、チェーン内のあるADGS2414Dから次のADGS2414Dに対し、スイッチの構成用の情報が引き渡されます。

  Two ADGS2414D devices in a daisy-chain configuration

図5. デイジーチェーンの形で構成した2つのADGS2414D

エラーの検出機能

ADGS2414Dにおいて、SPIについてはプロトコル・エラーと通信エラーを検出することができます。エラーの検出機能としては3種類が用意されています。まず、SCLKのカウントが正しくない場合にはそのことが検出されます。また、アドレスに対する無効な読み出し/書き込みを検出することが可能です。更に、CRC(Cyclic Redundancy Check)エラーも検出することができます。それぞれのエラー検出機能については、エラーに関する構成用のレジスタのイネーブル・ビットを使用することで、イネーブルまたはディスエーブルに制御することが可能です。また、エラー・フラグ用のレジスタには、各エラー検出機能に対応するフラグ・ビットが用意されています。

まとめ

ADGS2414Dは、プリント基板の設計に対して大きなメリットをもたらします。また、電子計測技術に対する画期的なソリューションでもあります。同ICについては、受動部品に対応する革新的なコパッケージング、スルー配線ピン、SPIのサポート、小さなオン抵抗が特徴として挙げられます。それらにより、基板面積の大幅な削減、チャンネル密度の増大、測定精度の向上といった効果が得られます。アナログ・デバイセズのスイッチICは、業界でトップ・レベルの性能を達成しています。ADGS2414Dでは、複数のダイをスタックするパッケージ技術により、それらと同等のレベルの性能を達成しています。同ICが実現されたことにより、スイッチのチャンネル密度を大幅に高められる革新的かつ高精度のスイッチ・ソリューションが新たに登場したことになります。

ADGS2414Dについて質問したいことなどあれば、https://ez.analog.com/switches_multiplexers/ にアクセスしてください。