著者:Bryson Barney
ネットワークの接続は正しいのに、奇妙な現象が起きることがあります。例えば、通信機能が断続的にしか利用できなくなるといった具合です。実際、ノードに障害が発生するという理由で、現場からの返品が予想以上の数に達するケースは少なくありません。困惑させられるのは、典型的なネットワークを模した実験室でテストを行っても、そうした問題は一切生じないというのです。
図1に、1つの具体的な例を示しました。オシロスコープを使用してレシーバーの入力の1つをプローブしたところ、周波数が500kHzの差動信号がRS-485の制限値を大幅に超えてスイングしていることがわかりました。この図において、C3はトランシーバーに入力されるデータを表しています。また、C1とC2の信号は、トランシーバーが駆動しているケーブルに外部環境からの500kHzの信号が結合している様子を表しています。受信側のトランシーバーは、500kHzの信号が重畳されたデータの信号を受け取ることになります。

図1. オシロスコープで取得した信号
何が起きているのか?
EIA-485の規格は1983年に発行されました。同規格では、賢明にも-7V~12Vという広いコモン・モード電圧範囲が定義されました。コモン・モード電圧は、リファレンス電圧(通常はレシーバーのグラウンド)に対する差動ペアのAラインとBラインの共通DC電圧として定義されます。理想的な状況では、コモン・モード電圧は標準的な範囲内である0V付近にとどまります。ただ、ノード間のケーブルが長くなると、ネットワークは外部からの影響を受けやすくなります。その結果、コモン・モード電圧が許容範囲を超えてしまうことがあります。その原因としては、複数のノードをつなぐケーブルの大きな抵抗値が挙げられます。オームの法則から、このケーブルの抵抗を通過する電流によって反対側の端にはI×Rに相当する電圧の変化が生じます。また、動的な電流が流れる原因としては、容量性結合、誘導性結合、RF結合などが挙げられます。これらは、産業用オートメーション・システム、再生可能エネルギーを扱う設備、車載/輸送ネットワークなど、RS-485をベースとするネットワーク・アプリケーションで一般的に生じています。品質の高いシールド付きケーブルを使用すれば、電気信号に対する外部のノイズ源からの結合を軽減できます。但し、その種のケーブルは高価です。代替案としては、コモン・モード範囲が拡張されたトランシーバーを使用する方法が考えられます。その種のトランシーバーは、コモン・モード電圧の大きな変化に対応できるよう特別に設計されています。アナログ・デバイセズの場合、堅牢性の高いRS-485対応トランシーバー製品のラインアップにいくつかのオプションを用意しています。
例えば±40Vのコモン・モード範囲が必要な場合、以下に示す製品は対応可能です。
- MAX33070E/MAX33071E/MAX33072E/MAX33073E/MAX33074E:RS-485対応のトランシーバー。半二重、3.3V~5V、広いコモン・モード範囲
- LTC2863/LTC2862A:RS-485対応のトランシーバー。半二重または全二重、3.3V~5V
拡張コモン・モード範囲に対応するトランシーバーの必要性
拡張コモン・モード範囲に対応するトランシーバーは、果たして必要なものなのでしょうか。その答えはコモン・モード電圧の変動量に依存します。アプリケーションにおいて、一般的な変動源(詳細は後述)のうちいずれかが存在すると予想されるケースがあるでしょう。その場合、コモン・モード範囲を拡張したトランシーバーを使用すると効果的です。それにより、ネットワーク全体の保護性能を向上し、コストのかかる通信関連の問題を回避することが可能になるからです。

図2. コモン・モード電圧の変動源(その1)。モータや高圧電源は変動源になり得ます。
モータや高圧電源が近くにあるケース
ここからは、コモン・モード電圧を変動させる要因について説明していきます。まず、工場の製造フロアにあるモータや高圧電源は、それらの動作原理に基づいて大電流をスイッチングします。その結果、大きな電磁干渉(EMI)が生じる可能性があります。スイッチングする大電流は強力な磁界を誘起します。そして、それらはケーブルの配線に結合する可能性があります。これはRF結合の一例です。

図3. コモン・モード電圧の変動源(その2)。電源の配線とデータの配線が1つのケーブルとして束ねられています。
電源とデータを1つにまとめたケーブル
ネットワークのノードが、ケーブルを介してAC電圧源を使用しつつ、ローカルのグラウンド基準に接続されているケースがあるでしょう。その場合、RF結合が発生する可能性があります。AC電圧源の配線がデータの信号線と同じケーブルに束ねられている場合、容量性結合によってデータの信号線に意図せぬ電流が流れる可能性があります。

図4. コモン・モード電圧の変動源(その3)。各建物のグラウンドに電位差が生じることがあります。
建物と建物を結ぶネットワーク
あるエリアと別のエリアのグラウンドには電位差が生じている可能性があります。この状態は、ネットワーク・ケーブルによって1つの建物と別の建物が接続されている場合によく見られます。

図5. 各建物のグラウンドに電圧差が生じる例
図5は、一般的なシステムが遠く離れた2つの建物の間でデータ伝送を行う様子を示したものです。単相配電システムのグラウンド間に生じる地電流も示してあります。同様の地電流は、3相のY結線システムでも発生します。なお、この図で使用している5V、8Vという値は、この種のシステムで発生し得る電圧の例です。これらは説明のために用意したものであり、実際のアプリケーションでは異なる値になる可能性があります。
契約者向け配電システムの中性線を、電力引込口において、地中に埋設された接地棒に接続したとします。そうすれば、電力線の中性線が安全なグラウンドとして確立されます。このグラウンドのポイントから裸線または緑色の被覆線を使って配線を行うことにより、敷地内に設置されたすべてのコンセント/機器に対して安全なグラウンド基準を提供することができます。産業用のシャーシ・フレームでは、シャーシの電力入力ポイントを安全なグラウンドに接続します。そこがフレームのグラウンドになります。
配電システムにおいて、ACの1次側または2次側の中性線電流に起因して、安全なグラウンド線にリーク電流が流れたとします。その場合、中性線とフレーム・グラウンドの間に数Vから数十Vの電位差が生じることがあります。
これらの潜在的なグラウンド・ループやリーク電流のパスは、あらゆる変動源に伴う結合(誘導性、容量性、RF)を介して、コモン・モードに関する多くの問題を引き起こします。
まとめ
ネットワークにおいて信号の電圧変動が発生しても、諦める必要はありません。RS-485の規格値を超えるコモン・モード電圧をもたらす結合が存在する場合でも、コモン・モード範囲を拡張したRS-485対応のトランシーバーを使用すればデータを適切に送受信することができます。詳しくはanalog.com/jpに掲載されているインターフェースICや絶縁ICの情報を参照してください。
併せて、「TranscendingConventionalFieldBus」のブログ記事もご覧ください。