著者:Michael Jackson、Chris Stelmar
この連載の以前の記事では、IO-Link®の話題を取り上げました。その中で、同技術に対応するトランシーバーを使用すれば、ネットワークに依存しない産業用フィールド・デバイス(センサー/アクチュエータ)を設計できることを明らかにしました。次のステップは、IO-Linkマスタを設計することです。それにより、各フィールド・デバイスを産業用ネットワーク(またはフィールドバス)に接続し、工場の製造フロアからPLC(Programmable Logic Controller)までプロセス・データを伝送することが可能になります(図1)。
今回は、アナログ・デバイセズが産業分野の通信システム向けに提供しているソリューションを紹介します。そのソリューションを活用すれば、一般的な産業用イーサネット・プロトコルを使用して、スマート・フィールド・デバイス間の通信を実現することができます。また、柔軟性の高いIO-Linkマスタの設計にかかる時間を短縮することが可能になります。
図1. IO-Linkの活用方法。IO-Linkに対応するデバイスは、IO-Linkマスタを介して産業用イーサネットに接続することができます。
柔軟性の高いIO-Linkマスタ・トランシーバーを選択する
IO-Linkマスタは、センサーからプロセス・データを受け取り、アグリゲーションの処理を行います。得られた結果は、より高いレベルの産業用ネットワークに送信します。この通信は、IO-Linkに対応するアクチュエータがプロセス・データを送信する方向とは異なります。IO-Linkマスタがサポートできるデバイスの数は、使用可能なポートの数に依存します。そのため、1つのIO-Linkマスタには、複数のトランシーバーが必要になるケースもあります。IO-Linkマスタ・トランシーバーを選択する際に検討すべき重要なパラメータとしては、以下のものが挙げられます。
アナログ・デバイセズの「MAX14819」は、デュアルチャンネルのIO-Linkマスタ・トランシーバーです。低消費電力の製品であり、上記のすべての項目に高いレベルで対応しています。また、同ICは、最新のIO-Linkの規格、バイナリ入力の規格、テストの仕様に完全に準拠しています。加えて、同ICは2つの補助用デジタル入力(DI)チャンネルを備えています。更に、自身と併用されるマイクロコントローラの選択を容易にするために、UART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)とFIFO(First In, First Out)を備えるフレーム・ハンドラを内蔵しています。これは、すべてのMシーケンスのフレーム・タイプに対してタイム・クリティカルな制御を行う役割を担います。MAX14819は、センサー向けの電源コントローラを2つ内蔵しています。それらの低消費電力のコントローラは、産業環境で高い堅牢性を実現するために、高度な電流制限機能、逆電流に対するブロッキング機能、逆極性に対する保護機能を備えています。図2は、IO-Linkマスタが備えるマイクロコントローラ(MCU、μC)とMAX14819を接続する方法を表したものです。なお、この回路には補助用の電源と絶縁用のICも含まれています。
図2. MAX14819の代表的な(シングルチャンネルの)アプリケーション回路。同ICは、IO-Linkマスタ・トランシーバーです。
産業用ネットワーク向けの柔軟性の高いインターフェース
「ADIN2299」は、アナログ・デバイセズが提供するネットワーク・インターフェース製品です(図3)。この製品は、第2世代のRapIDプラットフォーム(RPG2)に位置づけられます。産業用ネットワークにおけるトラフィックの管理に使用可能な検証済みの完全なソリューションとして実現されています。このプラットフォームには、広く使われている産業用イーサネットのネットワークにIO-Linkマスタを接続するためのあらゆるものが含まれています。産業用イーサネットの例としては、以下のようなものがあります。
なお、ADIN2299は産業用イーサネットだけでなく、産業用の通信プロトコルであるPOWERLINKとModbusもサポートしています。
図3. ADIN2299の機能ブロック図
この集積度の高いソリューションは、各種の産業用ネットワーク・トポロジに対応して動作するように設計されています。具体的には、スター型、ライン型、リング型のトポロジに対応します。ADIN2299は、通信向けのコントローラ、10Mbps/100Mbpsのイーサネットに対応する2ポートのスイッチ、メモリ、トランシーバーの物理層(PHY)などから構成されています。そのハードウェアにソフトウェアと認定済みの産業用プロトコルを組み合わせることで、複数のプロトコル・スタックだけでなく、RTOS、ファイル・システム、ドライバ、TCP/IPに対応する機能が提供されます。そのため、設計とデバッグの時間を短縮することが可能になります。
ADIN2299には、SPI(Serial Peripheral Interface)を介して、IO-Linkマスタが備えるMCUを簡単に接続できます(SPIだけでなく、イーサネットとUARTのインターフェースも提供されています)。ADIN2299のソフトウェアにより、MCUに対しては各産業用プロトコルに対応する単一の統合インターフェースが提供されます。そのため、MCUのファームウェアを変更する必要はありません。新たにプロトコルを追加するための学習が不要なので、開発時間を短縮することができます。セキュリティ機能もADIN2299の重要な要素の1つです。同製品はセキュア・ブート機能とセキュア・アップデート機能を備えています。検証済みのコードだけが実行されるので、サイバー攻撃によって現場の業務が中断される可能性を低減できます。図4に、IO-Linkマスタ全体のブロック図を示しました。図4(下)の表には、この実装に対して推奨されるアナログ・デバイセズのソリューションの一覧を示してあります。
ブロック |
アナログ・デバイセズが推奨するソリューション |
産業用ネットワーク・インターフェース |
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マイクロコントローラ |
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IO-Linkマスタ・トランシーバー |
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ハイサイドのスイッチ |
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降圧型のDC/DCモジュール |
図4. IO-Linkマスタのブロック図。下の表には、この実装に対して推奨されるソリューションをまとめてあります。
アナログ・デバイセズは「EV-RPG2」という評価用キットも提供しています。これを使用すれば、IO-Linkマスタの設計にADIN2299を組み込む前に、MCUからPLC(またはPCベースのツール)までの通信パスの検証を実施することができます。また、アナログ・デバイセズは、各種の産業用プロトコルに関する評価を行えるようにするために、EV-RPG2をカスタマイズしたバージョンも提供しています。対応するプロトコルは、EtherCAT、EtherNet/IP、PROFINET、POWERLINK、Modbusです。
アナログ・デバイセズが提供するIO-Linkマスタ向けのソリューションについては、こちらをご覧ください。