著者:戸上晃史郎
1. はじめに
現代の電子機器は、ますます高性能化し、同時に低ノイズで高効率な電源供給が求められています。アナログ・デバイセズが開発した最新のスイッチングレギュレータ技術であるSilent Switcher 3は、こうしたニーズに応えるために設計されました。
Silent Switcher 3は、従来のスイッチングレギュレータが抱えるノイズや効率の問題を解決し、よりクリーンで安定した電力供給を実現します。この技術は、産業用機器、医療機器、通信機器など、ノイズに敏感なアプリケーションに最適です。
主な特徴と利点の概要
本記事では、Silent Switcher 3の技術的背景、主要な特徴、応用分野、そして実際の製品例について詳しく紹介します。Silent Switcher 3がどのようにして高効率と低ノイズを両立させているのか、その革新的な技術の全貌を探っていきましょう。
2. 技術の背景
従来のスイッチングレギュレータの課題
スイッチングレギュレータは、効率的な電力変換を実現するために広く使用されていますが、従来の技術にはいくつかの課題がありました。特に、ノイズの発生や効率の低下、熱性能の問題が挙げられます。これらの課題は、特にノイズに敏感なアプリケーションにおいて大きな障害となっていました。
Silent Switcher技術の進化
アナログ・デバイセズは、これらの課題を解決するためにSilent Switcher技術を開発しました。
Silent Switcher 3の登場
最新のSilent Switcher 3は、これまでの技術をさらに進化させ、超低ノイズ性能、高速過渡応答、高効率と低EMIを実現しています。この技術は、従来のスイッチングレギュレータの課題を完全に克服し、次世代の電源供給ソリューションとして位置づけられています。
Silent Switcher 3は、10 Hzから100 kHzの範囲での低周波ノイズを大幅に低減し、瞬時に負荷変動に対応する高速過渡応答を持ちます。また、高効率を維持しながら、電磁干渉(EMI)を最小限に抑える設計が施されています。さらに、スイッチング周波数を上げても効率の低下を抑制することができるため、より高性能な電力変換を実現します。
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3. Silent Switcher 3の特徴
超低ノイズ性能
Silent Switcher 3は、10 Hzから100 kHzの範囲での低周波ノイズを大幅に低減します。これにより、ノイズに敏感なアプリケーションでもクリーンな電力供給が可能となります。特に、医療機器や高精度計測機器などでその効果が顕著です。そのノイズ性能は当社の超低ノイズLDOの性能に匹敵し、一般的なLDOの性能をはるかに凌駕しています。
高速過渡応答
Silent Switcher 3は、瞬時に負荷変動に対応する高速過渡応答を持っています。これにより、急激な負荷変動が発生しても安定した電力供給を維持することができます。通信機器や産業用制御システムなど、リアルタイムでの応答が求められるアプリケーションに最適です。低電圧・高精度を要求されるプロセッサのコア電圧への供給に最適です。
高効率と低EMI
Silent Switcher 3は、高効率を維持しながら、電磁干渉(EMI)を最小限に抑える設計が施されています。これにより、エネルギー損失を抑えつつ、他の電子機器への干渉を防ぐことができます。また、スイッチング周波数を上げても効率の低下を抑制することができるため、より高性能な電力変換を実現します。
コンパクトな設計
Silent Switcher 3は、コンパクトな設計が特徴であり、スペースの限られたアプリケーションにも適しています。これにより、設計の自由度が高まり、さまざまなデバイスに組み込むことが可能です。代表的なLT8622Sであれば4x3mmのLQFNパッケージで、インダクタも内蔵したμModuleタイプのLTM4702であっても6.25x6.25mmの小さなパッケージで提供しています。
高信頼性
Silent Switcher 3は、高信頼性を誇り、長期間にわたって安定した性能を提供します。これにより、ミッションクリティカルなアプリケーションでも安心して使用することができます。
図3
4. 応用分野
Silent Switcher 3は、その優れた性能と多機能性により、さまざまな分野での応用が期待されています。以下に、主な応用分野を紹介します。
産業用機器
Silent Switcher 3は、高精度が求められる産業用機器に最適です。例えば、計測機器や制御システムでは、ノイズの少ない安定した電力供給が必要です。特に、高精度高速ADC(アナログ・デジタルコンバータ)の電圧供給には、非常にクリーンなSilent Switcher 3の電圧供給が不可欠です。また、大規模FPGAのコア電圧電源供給にもSilent Switcher 3は最適であり、その高効率と低ノイズ性能がシステム全体の信頼性と性能を向上させます。
医療機器
医療機器は、特にノイズに敏感であり、クリーンな電力供給が求められます。Silent Switcher 3は、医療用電子機器においてもその性能を発揮し、正確な診断や治療をサポートします。例えば、MRI装置や超音波診断装置などでの使用が考えられます。
通信機器
通信機器では、高速データ通信が求められ、電力供給の安定性が重要です。Silent Switcher 3は、高効率と低EMIを実現し、通信機器の性能を最大限に引き出します。特に、Silent Switcher 3の出力は非常にクリーンであるため、RF ICにLDO(低ドロップアウトレギュレータ)を介すことなく直接電圧を供給することが可能です。これにより、設計の簡素化と効率の向上が図れます。
消費者向け電子機器
コンパクトな設計と高効率を兼ね備えたSilent Switcher 3は、消費者向け電子機器にも適しています。例えば、スマートフォン、タブレット、ノートパソコンなど、スペースの限られたデバイスにおいても優れた性能を発揮します。
5. 実際の製品例
Silent Switcher 3技術を搭載した製品は、さまざまなアプリケーションに対応するために設計されています。以下に、代表的な製品とその特徴を紹介します。
LT8622S:18V、2A、超低ノイズ降圧Silent Switcher® 3
LT8624S:18V、4A、超低ノイズ降圧Silent Switcher® 3
LT8625S:18V、8A、超低ノイズ降圧Silent Switcher® 3
LT8627SP:18V、16A、超低ノイズ降圧Silent Switcher® 3
LTM4702:16V、8A、超低ノイズ降圧Silent Switcher®3 μModuleレギュレータ
6. まとめ
Silent Switcher 3は、アナログ・デバイセズが開発した最新のスイッチングレギュレータ技術であり、超低ノイズ性能、高速過渡応答、高効率と低EMIを実現しています。この技術は、産業用機器、医療機器、通信機器、自動車、消費者向け電子機器など、さまざまな分野での応用が期待されています。
Silent Switcher 3の利点の総括
今後の展望
Silent Switcher 3は、今後もさらなる技術革新が期待されており、より多くのアプリケーションでの採用が進むでしょう。特に、次世代の電子機器やシステムにおいて、その高性能と信頼性が求められる場面での活躍が期待されます。アナログ・デバイセズは、引き続きSilent Switcher技術の進化を追求し、より優れた電源供給ソリューションを提供していくことでしょう。
Silent Switcher 3については、こちらの技術記事も是非ご参照ください。
さらなるノイズ低減を実現したSilent Switcher® 3