著者:HamedSanogo
本稿は、連載記事「AI用アクセラレータ・カードに最適な電源システム」のPart 3です。今回は、次なる波に目を向けることにします。その先進的な技術は、垂直給電(Vertical Power Delivery)と呼ばれています。まずはこれについて詳しく解説します。その上で、垂直給電の実装を可能にするアナログ・デバイセズのイノベーションを紹介します。
前回までの記事を読んでいただいた方であれば、既にAI用のアクセラレータ・カードが抱える課題にお気づきでしょう。AIは、より多くの電力を、より高い頻度で必要とします。しかも、その実装スペースは、より小さく抑える必要があります。加えて、AIによる処理についてはいかなるエラーも許容されません。これらの課題は、マルチフェーズのPoL(Point of Load)コンバータを改良することによってかなり解消されました。しかし、そうしたイノベーションをもってしても、次世代のAIに必要な超高密度(電力密度や実装密度)のGPU(Graphics Processing Unit)やTPU(Tensor Processing Unit)の進化に追随できないケースもあるでしょう。その場合、どのように対処すればよいのでしょうか。
垂直給電 - AI用のプリント基板の新たなパラダイム
従来の給電は水平方向に行われてきました。つまり、プリント回路基板の端に配置された電圧レギュレータにより、基板上の貴重なスペースの全体にわたって電流が送られるということです。しかし、AIが稼働するシステムでは、連続的に650A、ピーク時には1000Aを超える電流が標準的に求められることがあります。その場合、配線がどれだけ短かったとしても、その抵抗成分を無視することはできません。それが致命的な問題につながる可能性があるからです。
この状況を根底から覆す技術が垂直給電です。この技術は、裏面電源供給(Backside Power Delivery)とも呼ばれています。従来は、基板上で数cmの距離にわたり配線パターンを蛇行させて電流を供給していました。垂直給電ではそのようなことは行いません。多くの場合、給電に使用するのは、コントローラ、パワー段、インダクタ、コンデンサなどを内蔵するPoL用の電圧レギュレータ・モジュール(VRM:Voltage Regulator Module)です。そのVRMを基板の裏面に配置します(図1)。裏面であればどこでもよいということではなく、xPU(GPUやTPU)の真下に配置しなければなりません。それにより、電力は専用のビアを介してVRMからxPUの電源ピンに向けて垂直方向に直接供給されます。このような構成であれば、配線パターンの長さ、インピーダンス、電圧降下を非常に小さく抑えられます。

図1. 垂直給電のイメージ。基板の裏面に配置されたVRMによってxPUに電力を供給します。
密度以外のメリット - 効率、熱、性能
垂直給電は、単により多くのものをより小さなスペースに詰め込むための技術ではありません。高い密度を実現できるだけでなく、以下に挙げるようなメリットも得られます。
- I²R損失の低減:直接接続される短い経路により、エネルギーの無駄と発熱を抑えながらxPUに電力を供給することができます。そのため、効率と信頼性が向上します。
- 過渡応答の高速化:相互接続が少なく、物理的な意味でより密な統合が実現されます。このことから、AIに関連する負荷が極めて激しく増大した場合でも、電源レールが瞬時に安定した状態に復帰できるようになります。
- 熱の管理の簡素化:垂直給電では、高周波用のデカップリング・コンデンサをxPUの真下に配置します。つまり、同コンデンサを最も必要とする場所に実装することになります。熱は、xPUの上面冷却型パッケージから直接放散されます。
垂直給電を採用すれば、最大限の電力を最小限のスペースで供給できます。それだけでなく、上に列挙したような効果も得られます。つまり、AIによる革命に必要な要件を完璧に満たすということです。
アナログ・デバイセズのソリューション、それが重要である理由
垂直給電の潜在能力を最大限に引き出すには何が必要なのでしょうか。それに向けて、アナログ・デバイセズは以下に示す3つの中核的な技術の融合を図っています。
- 集積度の高いフリップ・チップ・パッケージ:本連載のPart 2で紹介した「MAX16602」と「MAX20790」は、基板の裏面に実装するVRMに不可欠な要件を満たすように設計されています。具体的には、寄生インダクタンスを最小限に抑えつつ、最適な形で熱を放散できるようになっています。
- 特許取得済みの結合インダクタ技術:Part 2では、アナログ・デバイセズの結合インダクタ(CL:Coupled Inductor)技術も取り上げました。CL技術を使用すれば、垂直給電の構成において、非常に高い効率と非常に小さなサイズを達成できます。また、最新のAIに対応する基板に必要な大電流の供給能力と過渡応答が得られます。
- 高度な制御と監視:ハードウェアだけを使用して、制御と監視の処理を実現するのは現実的ではありません。ソフトウェアも活用することで、デジタル・テレメトリの機能や、自律的な位相シェディング(phase shedding)の機能、障害からの迅速な復旧機能を実現する必要があります。それにより、明日のシステムの安全性、予測可能性、未来への適応能力を確保できます。
今後の展望
AIに関連するアーキテクチャやアプリケーションは急速に進化しています。そうしたなか、アナログ・デバイセズは既に次の展開を想定しています。例えば、VRMについては更に高密度のものが必要になるでしょう。従来のデータ・センターでは、650Aの連続電流を供給できることが1つの要件でした。それに対し、最先端のデータ・センターでは、既に1000A以上の電流を供給可能なスーパーカードが使われています。それだけでなく、インテリジェントで再構成が可能な新世代の制御システムも設計されています。その種のシステムは、ソフトウェア定義型のレギュレーション機能、リアルタイム対応のテレメトリ機能、自己修復型の電力ネットワークのためのAIインザループ(AI-in-the-loop)の機能などを提供します。エコシステムに属する企業とのパートナーシップも重要な要素です。例えば、CLに関する知的財産のライセンスは無償で供与される予定です。また、主要な磁性部品のメーカーとはより密な連携が図られるでしょう。更に、カスタムのテレメトリ機能やアナリティクス機能を利用できるようにするために、お客様向けのAPI(Application Programming Interface)が提供される予定です。
今後、AIは様々な形で進化を続けるでしょう。どのような方向に向かうとしても、アナログ・デバイセズはその進化を支え続けます。具体的には、世界最小のサイズで、最も発熱量が少なく、最も信頼性の高いプラットフォームの実現に尽力します。それにより、安全性に優れ、応答が高速で、精度の高い給電方法を提供します。
まとめ - 未来のインテリジェンスへの給電に、いま備える
医療や気象、セキュリティなどの分野では、新たなアプリケーションが続々と登場しています。それに伴い、AIが社会や地球に与える影響はますます大きくなっていくでしょう。大躍進を遂げるのか、それとも破綻を迎えるのか。その運命を分けるのは、AIの稼働環境となるシステムです。そのシステムを動作させるには、電力を供給しなければなりません。
アナログ・デバイセズは、給電技術の開発の最前線に立つことに誇りを持っています。また、次世代のAIをターゲットとするスーパーカードの開発や、クラウド向けのプラットフォームの拡張、最も難易度の高い課題の解決を担える人材の育成などに尽力していきます。そうしたあらゆるレイヤに向けて、性能と効率に優れる製品やイノベーションを提供していきます。
本稿の内容に関する詳細については、技術記事「AI用のアクセラレータ・カードに対する給電方法、トランジェントの影響を回避する」をご覧ください。
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