著者:Conal Watterson、Brian Condell
多くのアプリケーションでは、通信が非常に重要な役割を果たします。それを踏まえて、本稿では産業用イーサネットとリアルタイム・ネットワークとはどのようなものなのか説明します。その上で、それらはなぜ必要なのか、どうすれば簡単に利用できるのかということを明らかにします。本稿は、 リモートIOブログ・シリーズの第4回です。前回の記事「スペースが足りない」はこちらからご覧ください。
産業用イーサネットを採用すれば、インダストリ4.0に必要なリアルタイムの通信を実現できます。デタミニスティックな通信のメリットを真に享受するには、複数のプロトコルとソフトウェア・プラットフォームにどのように対応するのかという検討を実施することが必須です。それだけでなく、開発時間を短縮しつつ、ソリューションのサイズを縮小しなければなりません。
産業用イーサネットをリモートIOモジュールと共に使用する
産業用イーサネットを利用すれば、コントローラはデータにアクセスし、PLC(Programmable Logic Controller)からの命令コマンドを、製造フロアに分散配備されたセンサー、アクチュエータ、ロボットなどに送信することができます。また、既存のフィールドバスや4~20mAの電流ループが抱えていた主要な課題を解消することが可能になります。例えば、相互運用性を確保できない、帯域幅を拡張できない、エッジのノードに十分な電力を供給できないといった課題の解決に役立つということです。イーサネットは、より広いデータ帯域幅をサポートします。通信速度は100Mbpsに達しており、オプションでギガビット・レベルの速度にも対応できるようになっています。イーサネットは、産業以外の分野にも広く普及しており、長きにわたって利用されています。ナレッジベースが既に存在することから、必要なトレーニングの量を抑えつつ、迅速にコミッショニングを実施できます。
イーサネットにリモートIOモジュールを接続すれば、更に多くのメリットが得られます。例えば、4~20mAの電流ループや従来のデジタルIOを介して接続された既存のセンサー/アクチュエータに対し、イーサネットに接続されたオートメーション制御システムを介してアクセスすることが可能になります。また、帯域幅が拡大し、アドレスの指定が可能になり、デジタル化が推進されます。
リアルタイムの通信
標準的なイーサネットと産業用イーサネットにはいくつかの違いがあります。なかでも、リアルタイムかつデタミニスティックな性能の面で大きな差があります。通信については、「リアルタイム」または「デタミニスティック・リアルタイム」という用語がよく使用されます。それらは、1ミリ秒未満のサイクル・タイムを実現する通信機能に対して使用されます。リアルタイム性が求められないアプリケーションであれば、ウェブページなどの情報の更新が遅くてもそこまで大きな問題にはなりません。標準的なイーサネットはベスト・エフォート型のものなので、パケットの送達にかかる時間はマイクロ秒のレベルであることも、1分以上に達することもあります。更に言えば、データの送達が保証されているわけでもありません。例えば、システム内のトラフィックに問題が生じてデータが送達されないことも起こり得ますし、送信中のデータが失われたり、破損してしまったりする可能性もあるということです。
一方、製造環境でそのようなことが起きるとどのような結果を招くでしょうか。例えば情報の更新が遅れると、材料が無駄になったり、予期せぬ被害が人間に及んだりといった具合に大きな影響が生じる可能性があります。したがって、製造環境で稼働する制御アプリケーションには、パケットの送達とタイミングを保証するデタミニズムが必要になります。それにより、タスクやプロセスを正しく処理することが可能になります。ここで、トラフィックのルーティングにはTCP/IPが使用されます。このプロトコルは、本質的に上記のようなレベルのデタミニスティックな性能を保証していません。
産業用イーサネットを採用した従来のネットワークでは、レイテンシの制御とリアルタイム性をイーサネットに追加することで上記の問題に対処していました。その際に課題になったのは、必要な機能を追加するためには、通信スタックのほぼすべてのレイヤを変更しなければならないことでした。例えば、レイテンシの値を保証するには特殊なハードウェアを追加しなければなりません。このような多くの企業にとって共通の課題に対し、複数のベンダーがそれぞれに異なるソリューションを開発してきました。その結果、PROFINET、EtherNet/IP、EtherCATなどに対応する様々な特殊なレイヤが追加されるようになりました。
マルチプロトコルの産業用イーサネットをサポートする「ADIN2299」
上記のような経過をたどった結果、現在では様々な産業用イーサネットのプロトコルが使われるようになりました。そうした状況において、柔軟性の高いソリューションを実現するにはどうすればよいのでしょうか。1つは、「FIDO5210」のようなマルチプロトコル対応のイーサネット・スイッチと、認定済みの適切な通信スタックを組み合わせることです。アナログ・デバイセズの「ADIN2299」は、「RapID Platform Generation 2(RPG2)」とも呼ばれる産業用イーサネット・モジュール(プラットフォーム)です。2つのポートを備えており、100Mbpsの通信速度に対応します。FIDO5210に加え、2個のイーサネットPHY「ADIN1200」、ARM Cortex M4をベースとするプロトコル・スタック用のマイクロコントローラなどによって構成されています。これらのコンポーネントは、システムの設計上の要件に応じ、回路内に個別に配置することができます。このRPG2は、すぐに利用できる検証済みのソリューションです。これを採用すれば、産業用イーサネットをベースとするリアルタイムの通信機能を、既存または新規のIOモジュールの設計やフィールド・デバイスに簡単に追加できます。
図1. RPG2の外観/サイズ
ADIN2299には、以下に示すような多くの特長があります。
図2. ADIN2299のソフトウェア・ソリューションの全体像
これによって、図3のようなハイレベルのメリットが得られます。
図3. ADIN2299を採用するメリット
参考資料