著者:Jellenie Rodriguez、Andrei Felix Alejandro
はじめに
信号とは、電圧、電流、電磁界など、時間と共に変動する、媒体を介して送信したり受信したりできる情報またはデータが含まれた物理量のことです。
信号には、主としてアナログ信号とデジタル信号の2 種類があります。アナログ信号は本質的に連続であり、一定の時間変化し続けます。これに対し、デジタル信号はディスクリートなタイプの信号であり、特定の時間に取り得る有限のセットの値(つまり0 または1)のうち1 つの値をビットの形式で取るのみです(図1 アナログ信号とデジタル信号を参照)。
温度、圧力、湿度、距離など、現実世界の情報は、アナログ信号とみなされます。これらの信号は連続的であるため、媒体の中を伝搬する際にノイズや歪みの影響を受けやすく、それが情報の消失につながります。そのため、コンピュータなどの最新技術を応用する装置では、デジタル信号を使用します。その方が、アナログ信号に比べノイズ耐性が高く、より信頼性に優れた伝送が可能であるためです。
コンピューティング・システムが現実世界の情報を分析、保存、伝送するためには、これらのアナログ信号をデジタル信号に変換する必要があります。アナログ・デジタル・コンバータ(ADC)は、その名が示すように、アナログ量をデジタル形式に変換します。

図1. アナログ信号とデジタル信号
これに対し、デジタル・アナログ・コンバータ(DAC)は、伝送されたり保存されたりしたデータやデジタル処理の結果などを、制御や情報表示のために、あるいは更にアナログ処理を施すために、現実世界の変数に戻す場合に用いられます。
あらゆるものがデジタル形式になる今日の世界では、データ・コンバータに対する必要性が、これまでにないほど重要になっています。古い写真のデジタル・コピーを取ること、インターネットでライブ・ストリーミングすること、莫大な量の情報を伝送し保存することなど、枚挙にいとまがありません。高精度データ・コンバータの場合、ほとんどのアプリケーションは、速度、消費電力、帯域幅、入出力の範囲といった他のファクタよりも、取得された現実世界のデータの精度に焦点を置いています。
アプリケーション
データ・コンバータは、様々なタイプのアプリケーションで重要な役割を担っています。入力信号をデジタル信号に正確に変換することは、現実世界の多くのアプリケーションにおいて決して欠くことのできない重要なものとなっています。
高精度コンバータには、以下に示すようにいくつかのアプリケーションがあります。
- プロセスおよびモーション・コントロール
- マルチチャンネル・データ・アクイジション・システム(DAQ)
- デジタル・オーディオ、ビデオ、ディスプレイ・エレクトロニクス
- ビルディング用の制御およびオートメーション
- フィールド計測およびセンサー計測
- 状態基準保全(CbM)
- バイタル・サイン測定
- アクセス制御および資産管理
一例として、DAQ の代表的なシグナル・チェーンを下記の図2に示します。ADC は、センサーで取得されたアナログ信号入力を、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)やマイクロコントローラ(MCU)が使用できるデジタル信号に変換する役割を担っています。次に、システムは、入力センサーによって与えられた信号に応じて、取るべきアクションを決定できます。
最終的に出力デバイスまたはアクチュエータを制御することになるこの決定または処理は、その後DAC によってアナログ信号に変換されます。このシグナル・チェーンは、最も基本的な形態ではありながら、現在のほとんどの電子システムの基盤となる処理を構成しています。データ・コンバータの他、アンプ、RC フィルタおよびデジタル・フィルタ、複数の入出力のためのスイッチ・マルチプレクサなどで構築された、アナログおよびデジタル信号処理ユニットもあり、これらの構成要素がすべてシグナル・チェーン内で重要な役割を果たしています。このモジュールでは、主として高精度ADC に焦点を置きます。

図2. DAQ の基本的なシグナル・チェーン
アナログ・デバイセズの製品ポートフォリオはこれらのアプリケーションをカバーしております。また、上級編のモジュールで詳細を説明します。製品またはポートフォリオの詳細については、高精度ADC | アナログ・デバイセズを参照してください。
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SAR と シグマ・デルタ、2大アーキテクチャの使い分けは 「高精度ADC ― 上級編」で解説しています。(無料・要登録) |
データ・コンバータの基本動作
ナイキストのサンプリング定理
ADC の基本動作を考察する前に、サンプリングの基本を理解しておくことが重要です。サンプルまたはサンプリング信号を使用することにより、図3 に示す連続的なアナログ入力信号をデジタル・フォーマットで表すことができます。図4 に、パルス列信号を示します。ここでは各パルスの長さが等しく、周期は「TS」です。

図3. 連続的なアナログ信号

図4. サンプリング・パルス/パルス列信号
これらのパルス列がアナログ信号と混合される、または掛け合わされると、図5 に示すようなサンプリングされた出力信号が得られます。

図5. サンプリングされたデータ・システム
図5 に、リアルタイム・システムの例を示します。ここでは、入力アナログ信号がサンプリング周波数(fS)に等しいレートで連続的にサンプリングされ、N ビットADC が新しいサンプルをDSP(デジタル・シグナル・プロセッサ)に連続的に供給しています。新しいサンプルが到着するまでに、DSP はすべての計算をサンプリング周期内で完了しサンプルをDAC に送信しなくてはなりません。
連続的なアナログ信号は、離散的な間隔ts= 1/fsでサンプリングされます。この間隔は、元のアナログ信号を正確に表せるよう、慎重に選択する必要があります。このサンプリング・プロセスによって、サンプリングされた信号の最大帯域幅がナイキストの定理に従って決まります。この定理は、サンプリング周波数(fS)は、信号に含まれる最大周波数(fa)の2 倍以上でなくてはならない、ということを単純に述べています。つまり、fS > 2faです。サンプリング周波数が最大アナログ周波数(fa)の2 倍未満であると、エイリアシングとして知られる現象が発生します。エイリアシングとは、不要な周波数の信号が目的の帯域幅内に現れる状態のことです。
まず、図6 に示すように、シングル・トーン・サイン波を時間領域で表示するケースを調べてみましょう。この例では、サンプリング周波数fsは2fa未満であり、アナログ入力周波数faよりほんのわずか高いだけです。そのため、ナイキスト基準が満たされていません。実際のサンプルのパターンでは、fs-faという低周波数にエイリアシングされたサイン波(赤線)が生じることに注意してください。それによって、元の信号(黒線)とエイリアシング信号(赤線)とが区別できなくなります。そのため、信号を再構築しようとした場合、歪みが生じ、元の信号の一部が失われます。
図7 は、このシナリオでの対応する周波数領域表示の特徴を示しています。単一周波数のサイン波の周波数faが、(fs)の周波数でサンプリングされます。信号をサンプリングすると必ず、fsおよびfsの倍数付近に元の信号のイメージが現れる点に注意してください。
図7B には、入力信号周波数faのすぐ近くにあるサンプリング周波数fsも示されています。信号のエイリアスまたはイメージI は、公式I=fs-faに対応して第1 ナイキスト・ゾーンに現れます。この低周波数エイリアスをフィルタ除去するには、複雑なバンドパス・フィルタを信号に適用しなくてはなりません。図7A の場合、サンプリング周波数は入力周波数の2 倍より大きな比率に設定されているため、元の信号は第1 ナイキスト・ゾーンに入ります。そして、エイリアスまたはイメージはより高次の周波数ゾーンに入るため、基本的なローパス・フィルタを用いるだけで簡単に除去できます。
そのため、一般的に、取得するサンプル数が多いほど、信号のデジタル表示が正確になり、取得サンプル数が少ないほど、信号のデジタル表示は不正確になります。

図6. 時間領域でのエイリアシング

図7. 周波数領域でのエイリアシング
ADC の基本動作
アナログ入力信号をサンプリングするためのナイキスト基準を確立したので、次に、ADC の構成要素への理解を深めることによって、ADC の基本動作を考察します。図9 に、アナログ信号をデジタル・データに変換する流れの概略を示します。
サンプリング・ブロック(サンプラ)がアナログ信号を のレートでサンプリングします。その後、サンプリングされたポイントが離散的な値(緑色で表示)に量子化されます。この離散値は量子化器の設計によって異なります。リファレンス電圧が固定されたN ビットADC のデジタル出力では、2N個の状態のみが可能である、という点に注意することが重要です。ADC へのアナログ入力は青色で示す任意の値を取り得ますが、デジタル出力は緑色で示す離散値に量子化されるため、実際のアナログ入力とそれに対応するデジタル出力値との間に差異が生じる可能性があります。これを量子化誤差と呼びます。
値が不確定のアナログ信号が量子化されたら、この量子化されたポイントをコーダが処理して、同時並列ロジック出力、またはデータ・ワードと呼ばれるビットのシングル・ライン・シリアル・シーケンスのいずれかのグループにコード化します。
サンプル&ホールド回路(サンプラ)
これがアナログ・デジタル・コンバータの第一段階です。アナログ信号は連続的であるため、サンプル&ホールド回路は、アナログ入力信号からサンプルを取得しそれを一定時間保持して、サンプリングされた入力信号部分の出力を処理します。この回路は通常、数マイクロ秒程度の時間で入力信号をサンプリングします。

図8. サンプル&ホールド回路
上記図8 の回路は、スイッチ(S)とコンデンサ(C)で構成されています。コンデンサは、サンプル&ホールド回路の主要部品です。サンプリングされた入力信号を保持し、それをサンプリング・パルスに従って出力に供給する部品であるためです。
制御信号がスイッチに印加されるとサンプリング処理が始まります。スイッチが閉じると、信号は通過でき、コンデンサに蓄えられます。スイッチが開くと、回路は出力信号を保持して変換用にそれを処理したり、量子化器に供給したりします。

図9. アナログからデジタルへの変換の概略
量子化(量子化器)
これは、アナログ値にほぼ等しい値に丸めるという操作を含む、アナログ信号のデジタル化処理のことです。サンプリング手法では、アナログ信号のいくつかのポイントを選択し、それらのポイントを組み合わせて結果をほぼ安定した値へと丸めます。量子化器は、この量子化を実行するデバイスまたは回路です。
図10 に、アナログ信号の量子化を示します。アナログ信号は青色の線で表され、量子化された信号は茶色の線で表されています。量子化された信号は、多少粗く見えるかもしれませんが、量子化レベルが4 ビットではなく16 ビットに設定されたらどうなるか考えてください。y 軸上の各レベルがより正確になるのに伴い、結果として生成される信号は滑らかになります。
以下に示す4 ビットのデジタル・コード1110 について調べることから始めましょう。左端の1 は「最上位ビット」またはMSB(ビット3)と呼ばれ、右端の0 は「最下位ビット」またはLSB(ビット0)と呼ばれます。データの出力コードと変換の関係が特定されるまで、このコードの意味は不明です。

図10. 4 ビット・レベルへのアナログ信号の量子化
データ出力コーディング(コーダ)
コンピュータ・システムにおいては、0 および1 のビットを使用して情報を表現します。コードと変換の関係が特定されるまで、コードの意味は不明です。データ・コンバータで用いられるコーディング手法は、ADC のアナログ入力範囲と関係付ける必要があり、この入力範囲は、アナログ入力電圧がユニポーラ(正)かバイポーラ(負)(正および負)かによって決まります。
ユニポーラ・コード
入力が常に正電圧である場合、ユニポーラとも呼ばれます。ストレート・バイナリのコード化フォーマットは、このコーディング手法のために用いられている基本的かつ一般的なフォーマットです。
データ・コンバータのフルスケール(FS と略記)は、ビット数N には依存しません。小数バイナリは、フルスケール・レンジを正規化するコーディング手法です。ストレート・バイナリは、整数値を2Nで割ることにより、小数バイナリと解釈できます。各ビットには、2N-1/2Nの重み付けがあります。4ビット・コードでは、MSB = 1/2、LSB = 1/16 です。10 進数、バイナリ(2 進数)、FSの間の関係を下記図11に示します。最大コード(すべて1)で表されるアナログ値は、FS ではなくFS − 1LSB に等しいことに注意が必要です。これは、そのアーキテクチャが理由で、データ変換表記においてADC とDAC の両方にあてはまる一般的な慣例です。バイナリ・コードのそれぞれの増加は1LSBに等しい点に注意してください。これは、データ・コンバータの理想的な分解能が1LSBであることを意味します。実際の分解能には、誤差とノイズが影響します。これらのファクタについては、次のモジュールで考察します。
N ビットのストレート・バイナリ・コードでは、コードの値は、サンプリングされたアナログ入力電圧をリファレンス電圧で割り、デジタル・コードの数を掛けることによって求められます。アナログ入力に印加されたアナログ入力電圧に対するADC の出力コードは、次式を用いて計算できます。

VIN= アナログ入力電圧
Code = 10 進数値のADC 出力
N = ADC のビット数
VREF= ADC に印加される電圧リファレンス
バイポーラ・コード
多くのアプリケーションでは、正だけでなく負のアナログ量もバイナリ・コードで表す必要があります。このタイプの信号で最も一般的なのは、オフセット・バイナリと2 の補数です。図12 を参照してください。

図11. 4 ビット・コンバータに対するユニポーラのバイナリ・コード

図12. 4 ビット・コンバータに対するバイポーラ・コード
オフセット・バイナリ
コードのシーケンスはある程度ストレート・バイナリと同じです。ただし、オフセット・バイナリ・システムでは、ゼロの信号値はコード1000 にオフセットされ(割り当てられ)、最も負の値(−FS + 1LSB)はコード0001 に割り当てられ、最も正の値(+FS − 1LSB)はコード1111 に割り当てられます。負のフルスケール(−FS)を表すすべてゼロのコード(0000)は、演算においては通常は用いられません。ミッドスケールを中心とする完全な対称性を維持して計算が複雑にならないようにするためです。このコードは、負側の範囲外の条件を表すのに用いられるか、単に0001 の値(−FS + 1LSB)が割り当てられるだけです。アナログ入力に印加されたアナログ入力電圧に対するADC の出力コードは、次式を用いて計算できます。

このコーディング・フォーマットは、通常、帯域幅の狭いシグマ・デルタADC で用いられます。
2 の補数
このコーディング・フォーマットは、最上位ビット(MSB)の補数を取った(MSB を反転した)オフセット・バイナリと同じであり、ADC がバイポーラ・モードで動作する場合にも用いられます。2 の補数を求めるには、その数を反転し、これに1LSBを加えます。例えば、−3/8 FS は、+3/8 FS の2 の補数を取ることで得られます。そのためには、まず、+3/8 FS、すなわち0011 を反転し、1100 を得ます。これに1LSB を足し合わせれば、1101となります。2 の補数コーディングがよく使われる理由は、数学的処理がコンピュータやDSP で容易に実行できることにあります。変換を目的とする2 の補数コーディングは、正値のバイナリ・コード(符号ビットなし)、および負数を表示するための各正値の数の2 の補数から成っています。
これは、通常、広帯域幅のシグマ・デルタADC またはSAR ADC で用いられます。2 の補数では、10 進コードにLSB を掛ける前に、まずMSB をチェックする必要があります。MSB が0 の場合、10 進コードに直接LSB を掛けるだけで済みますが、MSBが1 の場合は、コードから2^N を差し引き、それからLSB サイズを掛ける必要があります。
ADC の主要な仕様
DC(静的)パラメータ
オフセット誤差とゲイン誤差
オフセット誤差およびゲイン誤差は、図13 に示すように、アンプのオフセット誤差およびゲイン誤差と類似しています。ADCの伝達特性は、コード = オフセット + (ゲイン ×VIN)で与えられる直線によって表現できます。ユニポーラ・コンバータでは、オフセットの理想値はゼロです。
図13 に示すように、オフセット誤差は、ゼロの実際の値とその理想値との差、または、最初のコード遷移の理想値(AGND + 1LSB)からの偏差であり、通常、単位はmVまたはµVのレンジです。

図13. 理想的な3 ビットADC の伝達関数
ゲインは、出力特性の傾きです。ゲイン誤差は、ゲインまたは傾きと理想値との差であり、一般にこの2 つの間の差がパーセンテージ(%)で表されます(mV、LSB、FS の%で表される場合もあります)。オフセット誤差も含め、この誤差は、キャリブレーションを行うことによってユーザが除去できます。ゲイン誤差は、オフセット誤差を調整した後、最後のコード遷移の理想値(VREF− 1LSB)からの偏差として測定されます。ただし、ゲイン誤差もオフセット誤差も、温度変化に応じて変動します。この変動はデータシートにおいてゲイン・ドリフトおよびオフセット・ドリフトとして仕様規定され、単位はそれぞれppm/℃とµV/℃です。そのため、誤差が通常の温度でキャリブレーションされたり調整されたりした場合でも、温度範囲全体にわたる誤差は依然として1 つの要素として残ります。
微分非直線性(DNL)
DNL は、コンバータの各コード遷移の直線性を表したものです。言い換えると、図14 に示すように、伝達関数の理想的な遷移電圧からの偏差を表すために用いられます。
理想的なADC では、デジタル出力コードの1LSB の変化は、アナログ入力信号の1LSB に正確に対応します。DNL 誤差は、伝達関数全体における任意の量の理想的な1LSB遷移からの最大偏差であり、LSB を単位として測定されます。ADC の過剰なDNLによって、ADC が非単調性になる場合もありますが、それよりも多く発生する結果は、ミッシング・コードです。ミッシング・コードが発生するのは、ADC のDNL が±1LSB の範囲にない場合です(図14 参照)。

図14. ADC のDNL
積分非直線性(INL)
積分非直線性は、コンバータの伝達関数の全体的な形状を表現するために用いられます。INL は、コンバータの実際の伝達特性の理想的な直線からの最大偏差として定義され、一般にフルスケールまたはLSB のパーセンテージを単位として表されます(図15 参照)。これを調べるもう1 つの方法は、エンドポイント法を用いることです。偏差は、原点とフルスケール・ポイントを結ぶ直線から測定されます(オフセットとゲインの調整後)。INL を測定する方法は他にもありますが、エンドポイント・システムは、アナログ・デバイセズが通常採用している方法です。

図15. ADC の伝達関数へのINL の影響とエンド法
AC(動的)パラメータ
S/N 比(SNR)
S/N 比は、実際の入力信号の二乗平均平方根(実効値)とナイキスト帯域幅(DC~fs/2)全体で測定した量子化ノイズおよびその他のスペクトル成分(高調波およびDC を除く)の実効値の比として定義されます(図16参照)。これは、ADCの出力スペクトルのFFT(高速フーリエ変換)から求めることができます。


図16. 周波数領域でのS/N 比
全高調波歪み(THD)
THD は、高調波の二乗和平方根の平均値と基本波信号の実効値との比で、単位はデシベルです。

アナログ・デバイセズでは、歪みを最初の6 高調波(2 次、3 次、4 次、5 次、6 次)の二乗和平方根と定義しており、図16 に示すADC の出力スペクトルのFFT からも求めることができます。
THD は、特定の基本波周波数の任意のレベルで仕様規定できる場合であっても、通常は、フルスケールに近い入力信号で仕様規定されます。

図17. 周波数領域でのTHD

H1~H6 の高調波は通常、搬送波の信号レベルを基準として測定され、単位はdBc です。THD をdB 単位で求めるには、次式に示すように、これらの高調波を比に変換し、二乗和平方根で結合し、dB に変換し直します。

信号/ノイズ + 歪み比(SINAD)
SINAD またはS/(N + D)は、信号振幅の二乗平均平方根(実効値)と、ナイキスト周波数未満のその他すべてのスペクトル成分(高調波を含みDC を除く)の二乗和平方根(rss)の平均値との比です。SINAD は、ノイズ(熱ノイズを含む)および歪みを構成するすべての要素を含んでいるため、ADC の全体的な動的性能を入力周波数の関数として示す優れた指標です。


図18. 周波数領域でのSINAD
スプリアスフリー・ダイナミック・レンジ(SFDR)
SFDR は、入力信号の実効値振幅と、対象帯域幅全体で測定されたピーク・スプリアス・スペクトル成分との差で、単位はデシベルです。特に指定のない限り、帯域幅はナイキスト帯域幅(DC~fs/2)と仮定します。
SFDR は、一般に信号振幅の関数としてプロットされ、信号振幅を基準として表されるか(dBc)、ADC のフルスケールを基準として表されます(dBFS)(図19 参照)。

図19. 周波数領域でのSFDR
ADC の速度と性能
スループット・レート
これは、出力データ・レート(ODR)とも呼ばれ、単位はサンプル/秒(SPS)です。ADC がサンプリングしたアナログ・データを処理してデジタル形式で出力するレートを指しています。ADC のアクイジション/セトリング・タイム、変換時間、コーディング時間の仕様によって定義されます。スループット・レートは、必ずしも入力でのサンプリング・レートに等しくないことに注意してください。ADC アーキテクチャによっては、オーバーサンプリング手法やデジタル・フィルタリングを使用し、また、一部のADC ではマルチプレックスされたチャンネル入力を備えており、これらが全体的なスループット・レートに影響します。これについては、高精度ADC – 上級編のモジュールで詳しく考察します。
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オーバーサンプリングやノイズ・シェーピングを使うシグマ・デルタADCの詳細は「高精度ADC ― 上級編」で詳しく考察します。 |
ノイズ性能および分解能
高精度ADCの代表的なデータ出力分解能は、16ビットまたは24ビットです。ただし、デバイスの有効ビット数は、ノイズによる制限を受けます。これは、ADC アーキテクチャ、入力帯域幅、出力データレート、ダイナミック・レンジまたはフルスケール・レンジ、ゲイン設定、あるいは使用するフィルタのタイプによっても異なります。

図20. ノイズ・スペクトル密度
ノイズは、ランダムな電気信号が回路に結合した結果です。不要なものであり、また、情報を搬送する信号の妨げになります。ADC のノイズは、通常、図20 に示すように、1/f ノイズとホワイト・ノイズの組み合わせです。
1/fノイズは、ピンク・ノイズとも呼ばれ、通常0.01Hz~10Hzの範囲のピークto ピークで仕様規定される低周波数ノイズです。ノイズ電力は、周波数に反比例し、主としてDC 信号の測定精度に影響します。このADC ノイズは一般に入力換算ノイズとも呼ばれ、多くの場合、ADC への差動入力を0Vdc の一定値に保持した状態で多数の出力サンプルのヒストグラムを分析することによって特性が評価されます。
一方、ホワイト・ノイズはブロードバンド・ノイズとも呼ばれ、通常、回路全体を通じ周波数範囲のどの部分にも存在します。このノイズは、主として、ADC の広帯域幅測定の精度に影響します。このノイズは、いわゆる量子化ノイズまたは量子化誤差によって主に支配されます。量子化(量子化器)のセクションで考察したように、量子化の操作は各サンプル値を、量子化レベルと呼ばれる、離散レベル/値の有限の集合における最も近いレベルに近似します。この近似によって、下記図21 に示すように量子化誤差が発生します。

図21. 量子化誤差
ダイナミック・レンジ(DR)
広帯域/AC 測定の場合、ダイナミック・レンジは、フルスケール入力信号範囲の実効値と、アナログ入力を短絡して測定された合計実効値ノイズとの比として計算されます。これは、FFT解析を用いて特性評価されます。その場合、ノイズはADC の量子化誤差およびADC の内部ノイズを含む複数のノイズ源の組み合わせになります。

狭帯域/DC 測定の場合、量子化ノイズは通常は重要ではありません。この種のアプリケーションをサポートする一部のADCアーキテクチャでは、オーバーサンプリング手法が用いられるためです。そのため、ADC のノイズは、入力換算ノイズまたは内部ノイズ(熱ノイズなど)が主要な支配要因になります。入力換算ノイズの量を測定するには、通常、ADC 入力をグラウンドに短絡するかバイアス電圧(通常はミッドスケール)に接続します。そして多数の出力サンプル(通常1000 サンプル)を収集し、下記図22 に示すように、ヒストグラムとしてプロットします。

図22. 入力を短絡(接地)したADC の入力換算ノイズのヒストグラム
ノイズがガウス分布の性質を持つと仮定すると、入力換算ノイズは出力コードをマイナス無限大からプラス無限大にわたるガウス曲線に分布させます。そして、ヒストグラムの標準偏差は入力ノイズの実効値に対応します。ただし、コードの99.99%は、ノイズ実効値の6.6 倍以内に発生します。そのため、ピーク・ノイズは、ノイズ実効値の6.6 倍です。
狭帯域/DC 測定のダイナミック・レンジを定量化する方法には、実効ダイナミック・レンジとノイズフリー・ダイナミック・レンジの2 通りがあります。実効ダイナミック・レンジは実効値ノイズを用いて計算され、ピークto ピーク・ダイナミック・レンジはピークto ピーク・ノイズに基づいて計算されることに注意することが重要です。また、これらは、フルスケール入力のピークtoピーク入力範囲を用いても計算されます。DC 電圧の実効値はDC 値と同じであるためです。ただし、DC 測定では通常ダイナミック・レンジは仕様規定されず、有効分解能およびピークto ピーク分解能が仕様規定されます。


有効ビット数(ENOB)
これは、サイン波入力(広帯域/AC 測定)での分解能の指標であり、次式で与えられます。

測定した信号/ノイズ + 歪み比(SINAD)の値から量子化ノイズ1.76dB を差し引き、それを、コンバータのビットの10を底とする対数を20 倍した値で割ることによって計算されます。
ENOB は通常ある範囲の入力周波数に対して与えられ、コンバータがどの程度正確かを、入力周波数および選択したサンプリング・レートの関数として設計者に示します。ENOB が広帯域ダイナミック・レンジに基づいて計算される場合もあります。
アナログ・デバイセズでは、S/N 比、THD、SINAD の値に基づいて実効値ノイズとENOB を計算するツールも提供しています。
SNR/THD/SINAD 計算ツール | 設計センター | アナログ・デバイセズ
有効分解能およびピークto ピーク分解能
有効分解能とピークto ピーク分解能をENOB と混同しないようにしてください。ENOB ではADC へのサイン波入力のFFT 解析を用いるのに対し、有効分解能とピークto ピーク分解能では、スペクトル歪みが要因とならない本質的に狭帯域/DC の測定でのADC のノイズ性能を測定します。
ピークto ピーク分解能は、コード・フリッカが生じない分解能、またはノイズフリー・コードの分解能を表します。そのため、動作性能を示すには有効分解能よりも適しています。ダイナミック・レンジの計算方法と同様、有効分解能は実効値ノイズを用いて計算するのに対し、ピークto ピーク分解能はピークtoピーク・ノイズに基づいて計算します。ピーク・ノイズは、統計的に実効値ノイズの6.6 倍です。そのため、有効分解能は、ピークtoピーク分解能より2.7ビット分だけ大きくなりますが、フリッカするビットの数には重きが置かれません。


用語の定義
ADC/DAC:データ・コンバータは、ADC の場合は、現実世界のアナログ信号をデジタル・データに変換するデバイス、DAC の場合はその逆を行うデバイスです。
DAQ:デジタル・アクイジション・システムは、コンピュータやプロセッサがそれらの言語(デジタル・データ)に変換することによって現実世界の情報を処理できるよう設計された、電子デバイスの組み合わせです。ADC は、図2 に示すように、信号処理デバイスと並んでDAQ の重要な部品の1 つです。
電圧リファレンス–(ADC では場合によってVREF)ADC が認識できる最大アナログ入力電圧を定義します。重要なのは、これが、サンプリングされた入力信号を量子化器が比較するリファレンスとして機能することです。
アナログ入力電圧範囲:ADC への許容可能な入力の範囲のことです。センサー出力をADC の入力電圧範囲に合わせるための調整は、外部ドライバ回路によって行われます。
分解能:理想的には、LSB の重み、フルスケールの百万分率(ppm FS)、ミリボルト(mV)など、いくつかの表現方法があります。基本的にはすべて、ADC の出力データの1 コードの変化を生む理想的な最小入力値、またはDAC の1 ビットの入力コードに対し実現可能な最小出力電圧ステップに関係しています。
単調性:特定の値が直前の値に等しいことはあっても決して減少することはありません。
フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA):プログラマブルな相互接続を介して接続される、構成可能ロジック・ブロック(CLB)のマトリックスをベースとした半導体デバイス。
量子化:アナログ値にほぼ等しい値に丸めるという操作を含む、アナログ信号のデジタル化処理。
小数バイナリ:フルスケール・レンジを正規化するコーディング・スキーム。
ストレート・バイナリ:10 進数をそれと等価な2 進数で表す方法。
LSB:ビットストリームの右端にある「1」は、「最下位ビット」と呼ばれます。
MSB:ビットストリームの左端にある「1」は、「最上位ビット」と呼ばれます。
フルスケール・レンジ(FSR):ADC のフルスケール入力は、信号がそのデジタル出力表示にクリップされる前にコンバータに供給可能な、最大の信号振幅です。フルスケールの場合、出力はADC の最小コードと最大コードを使用します。システムによっては、実効的な入力フルスケールを最大限に使用することによってADC のダイナミック・レンジを最大化しようとしますが、ADC が飽和してしまうと歪みが加わり、品質の低下したデータが出力されるようになります。
FFT:高速フーリエ変換は、時間領域の任意の信号から周波数領域の信号を計算したり、周波数領域の信号に変換したりするアルゴリズムです。振幅、位相、実部および虚部など、信号の周波数成分に対して複素スペクトル解析が可能になります。
RSS:二乗和平方根は、確率変数の関数の値の広がりを判定するために用いられます。
セルフ・チェック
- 入力周波数が50Hz で15 次高調波(750Hz)までのAC 主電源電圧測定システムを設計しようとしています。エイリアシングを避けるために必要な最小のADCサンプリング・レート/周波数を求めてください。
- AD7175-2 は、VREF= 2.5V の高精度リファレンス電圧を内蔵した、24 ビットのマルチプレックス・チャンネル・シグマ・デルタADC です。バイポーラ・モードの場合、ADC には−VREF~+ VREFの範囲の正負両方の差動入力電圧を使用でき、出力コーディングはオフセット・バイナリです。ユニポーラ・モードの場合、ADC には0V~+ VREFの範囲の正の差動電圧のみを使用でき、出力コーディングはストレート・バイナリです。入力電圧をVIN = 1.25Vとします。ユニポーラ・モードとバイポーラ・モードの場合の両方について、理想的な等価16 進コード変換値を計算してください。
- AD7779は、PGA を内蔵した8 チャンネル、24 ビットの同時サンプリング・シグマ・デルタADCです。差動アナログ入力VIN には、ユニポーラ(0V~VREF/ゲイン)または真のバイポーラ(±VREF/ゲイン)のアナログ入力信号が使用でき、アナログ電源電圧は3.3V または±1.65V です。このデバイスの出力コーディング・フォーマットは、2 の補数です。リファレンス入力VREF = 2.5V でゲイン = 2 の場合、0x800001の24ビット変換データ出力コードに対する等価差動入力電圧VINを求めてください。
- PGA とリファレンスを内蔵した、低ノイズ、低消費電力、24 ビット、シグマ・デルタADC であるAD7124-4 を使おうとしています。このデバイスを−40ºC~+125ºC の範囲の温度(公称25ºC)において、ゲイン = 2 で動作させる必要があります。データシートでは、最大ゲイン誤差とゲイン誤差ドリフトの未キャリブレーションでの仕様が以下のように示されています。
ゲイン誤差 = −0.3%(ゲイン >1 の場合)
温度に対するゲイン誤差ドリフト = 2ppm/ºC
温度範囲全域で動作させる場合、最大ゲイン誤差ドリフトはどの程度のパーセンテージ(%)になりますか。 - AD7982は、18ビット、1MSPSのPulSAR ADCです。+5V の単電源モードで動作するこの特別なADC は、S/N 比が98dB(代表値)、全高調波歪み(THD)が−120dB です。SINAD、実効値ノイズ、有効ビット数(ENOB)を求めてください。
- ロードセル・アプリケーションでは、センサーからのフルスケール出力電圧は10mV です。AD7190(PGA 内蔵、4.8kHz、超低ノイズの24ビット・シグマ・デルタADC)は、実効値ノイズが11nV(4.7Hz 時)、ゲインが128 と仕様規定されています。ピークto ピーク分解能またはノイズ・フリー分解能を求めてください。
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参考資料
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Kester, Walt、Understand SINAD, ENOB, SNR, THD, THD + N, and SFDR s、アナログ・デバイセズ、2004 年
Data Conversion Handbook、Walt Kester 編、Newnes、2005 年、ISBN 0-7506-7841-0。別発行:「Analog-Digital Conversion」、アナログ・デバイセズ、2004 年、ISBN 0-916550-27-3。
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