著者:Malcolm Kwok、Kristine Hoffman

図1. 高精度シグナル・チェーンµModule®
はじめに
アナログ・デバイセズの高精度シグナル・チェーンµModule®は、シグナル・チェーンの様々なブロックを他のパッシブ・デバイスと共に1 つのコンポーネント/システム・イン・パッケージ(SiP)に集積する、ヘテロジニアス・インテグレーションです。トレンドと歩調を合わせ、µModule ソリューションは、より小さなフットプリント、より迅速な回路開発、より少ないシステム開発コストとなるよう開発され、高精度、高正確性、低ノイズのソリューションを実現しています。「µModule」というブランドは、同様にSiP テクノロジーを使用するアナログ・デバイセズのµModule パワー製品のことを指す場合もあります。しかし、この高精度テクノロジーの学習モジュールでは、混乱を避けるため、「µModule」を高精度シグナル・チェーンのµModule の意味で用います。また、高精度シグナル・チェーンのµModule は、製品名に「ADAQ」を用いています。
ディスクリートからµModule へ
図2 は、ディスクリート部品を用いる回路図の例です。ディスクリート・シグナル・チェーン・ソリューションは、シグナル・チェーンの段ごとに様々な電子部品を用いて構成したものです。図2 において、このディスクリート・ソリューションには(2)ADC ドライバ(ADA4807)によって駆動とコンディショニングが行われる(3)完全差動ADC(AD4000シリーズ) があります。このディスクリート・ソリューションには、電圧 リファレンス(ADR4550)と(1)リファレンス・バッファ(ADA4807)も含まれています。

図2. AD4000 シリーズの評価用ボードの回路図

図3. ADAQ4003 µModule の評価用ボードの回路図
図3 に、µModule ソリューションを用いた回路図の例を示します。部品数が違うのがわかります。ディスクリート・ソリューションでは3 つに分かれていたシグナル・チェーン・ブロックが、既に1 つのµModule コンポーネントで機能しています。µModuleは、これら3つのコンポーネントのみに限定されるわけではありません。他には、マルチプレクサや電圧リファレンスまでも含むµModule ソリューションもあります。
µModule ソリューションの利点
スモール・フォーム・ファクタディスクリート・ソリューションのボードとµModule のボードを比較して気が付く最も明白な相違は、µModule のボードの方がフットプリントがはるかに小さいことです。それによって同じ面積でより多くのチャンネルが可能になるため、µModule は高チャンネル密度のDAQ アプリケーションに最適なものになります。このフットプリントの減少によって、アイソレータ、プロセッサ、トランスミッタなど、新たなシステムをボードに追加することもできます。

図4. ディスクリート・シグナル・チェーン・ソリューションのPCB

図5. µModule ソリューションのPCB
例えば、図4のPCB は、そのディスクリート・パッケージにおいて次のシグナル・チェーン・ブロックを用いています。つまり、(1)ADC ドライバ、(2)電圧リファレンス、(3)リファレンス・バッファ、(4)ADC、および、適切な動作と電源デカップリングのためのパッシブ・デバイスです。これに対し、図5 のPCB は、これらのすべてをµModule として集積するとどうなるかを示しています。明らかにPCB のサイズが大きく異なっています。
アナログ・デバイセズのiPassives™
抵抗、コンデンサ、インダクタ、トランス、ダイオードなどのパッシブ・コンポーネントは、通常はディスクリートです。つまり、これらは別個に製造されます。各コンポーネントの特異性や製造プロセスが異なることが、システムの整合性や性能に大きく影響する可能性があります。1 つの例が、抵抗の公差が反転アンプのゲイン精度に及ぼす影響です。パッシブ・コンポーネントは、寄生成分やハンダ付け処理の欠陥の影響も受けがちです。
また、パッシブ・コンポーネントは、部品表の約80%、PCB 面積の60%、全コストの20%にわたることでも知られており、こうしたことが在庫管理や保管に対する課題になっています。

図6. iPassives の構成要素
アナログ・デバイセズのiPassives(図6)は、SiP で用いられる技術であり、柔軟な設計ツールとして用いることができるため、システム・ソリューションの設計に対し、極めて短い開発サイクル時間で最高の性能と堅牢性を持たせることができます。図7に示すように、iPassives は、同じ条件、同じ材料バッチの下で、大面積の基板またはウェハ上に製作できるため高精度のマッチングが可能です。iPassives コンポーネントは、同一の製造プロセスで作られ、互いに数ミクロン以内に近接して配置されるため、ハンダ付けや寄生成分による問題をなくすことができます。図7 では、色のグラデーションで示されているように、iPassivesの抵抗の抵抗値が互いに非常によく一致していることがわかります。それにより、シグナル・チェーンは、温度変化によらず非常に正確なゲイン、オフセット、同相モード除去を実現でき、しかもチャンネルまたはデバイスによるばらつきはほとんどありません。

図7. ディスクリート抵抗とパッシブ抵抗のマッチングの比較
アナログ・デバイセズは、µModule ソリューションでiPassivesを使用することにより、これらの利点を更に増進しました。アナログ・デバイセズは、iPassives を用いてこれらの集積回路を互いに結び付け、また、そうすることにより、1 つのデバイス内にフル機能の高精度シグナル・チェーンを構築しています。図8 では、ADAQ4003 の設計において、どのコンポーネントがiPassives であるかがわかります。

図8. ADAQ4003 でのiPassives
確実にシステム性能を達成し、市場投入までの時間を短縮
ディスクリート・ソリューションでは、各デバイスの個別の性能に基づき、またシステム全体として、システムを最適化し適合化する必要があります。µModule を用いる場合にはこれは不要になります。
µModule は、アナログ・デバイセズの製品ポートフォリオから設計されたフル機能ソリューションであり、アプリケーションのシステムレベルの要件を達成できるよう検証されています。それによって、機能と優れた性能を確保すると共に、誤配線やコールド・ハンダなどのアッセンブリ・エラーによるPCB の歩留まり損失を最小限に抑えることができます。プラグアンドプレイ・ソリューションを用いれば、競合他社に先んじてシステムを市場に投入できます。
総所有コストの削減
システムの開発サイクルには二次的なコストが多数ありますが、µModule を用いることによってこれらを削減できます。PCB の製造歩留まりが高ければ、製造上のサポートを最小限に抑えることができます。販売後は、システムの堅牢性が高ければ、フィールドでのサポートの必要性が減らせます。部品表もµModule の高い集積度によって簡略化され、それによって顧客のサプライ・チェーンにおいて欠品するリスクが低減されます。
製品およびアプリケーション
市場投入されているµModule は多数あり、それぞれに固有のアプリケーション範囲があります。以下に、µModule 製品のいくつかの例を示します。

図9. ADAQ7980
ADAQ7980 は、16 ビット、1MSPS のµModule であり、広範な低消費電力アプリケーションまたはバッテリ駆動アプリケーションに対する一般的なデータ・アクイジション・ソリューションとして用いられます。このデバイスは、SAR ADC、構成可能なADC ドライバ、安定したリファレンス・バッファ、パワー・マネージメント・ブロックで構成されており、しかもこれらすべてが低消費電力です。

図10. ADAQ4003
ADAQ4003は、18ビット、2MSPSのµModule データ・アクイジション・ソリューションであり、SAR ADC、完全差動ADCドライバ・アンプ(FDA)、安定したリファレンス・バッファを内蔵しています。アナログ・デバイセズのiPassives を用いると、差動ネットワークは完全に整合し、システムは広い温度範囲にわたり、コモンモード・ノイズおよび偶数次高調波に対して堅牢になります。
アプリケーション:状態基準保全(CbM)
データ・アクイジションの特定のアプリケーションの1 つは、状態基準保全(CbM)です。CbM は、機械の状態をモニタし、常時その性能や品質を維持/保全することを可能にするための戦略です。CbM は、振動および音響、圧力、温度、電圧および電流、磁界など、様々な信号タイプを用います。CbM を用いるシステムの例の一部として、機械、高速鉄道、風力タービン、車両、航空機などの試験が挙げられます。

図11. CbM システムにおけるデータ・フロー
CbM システムは、センシング、測定、処理、接続またはインターフェース、データ分析などで構成されます。図11を見ると、µModule が測定(またはデータ・アクイジション)段で用いることができるのがわかります。

図12. µModule(ADAQ7768-1)を用いるCbMデータ・アクイジション・ソリューションのシグナル・チェーン
図12に、高性能CbM 向けのシングル・チャンネル・データ・アクイジション・ソリューションを示します。振動検出には(1)IEPE 加速度センサー(PCB 621B40)が用いられ、このセンサーが、信号のコンディショニングとデータの取得を行う(2)ADAQ7768-1 µModuleに接続されています。ADAQ7768-1は、24ビット、シングル・チャンネルの高精度µModule データ・アクイジション・システムであり、PGIA、ADC ドライバ、シグマ・デルタADC を内蔵しています。このシグナル・チェーンは、システムの部品数の削減、ソリューション・サイズの縮小、多様なセンサー入力への対応力にその力点を置いています。
µModule の評価方法
ご存じのように、µModule には多数の内部コンポーネントがあります。そのため、チップの設定変更を可能にし、また、正しくデータにアクセスできるようにするために、電源、クロック、接続性、およびその他の補助機能が必要です。

図13. ADAQ4003 評価用ボード
あらゆるコンポーネントの評価や試験が簡単にできるよう、アナログ・デバイセズは、評価用ボードを提供しています。評価用ボードは、電子部品の試験、評価、トラブルシューティングを行うために設計された回路です。例えば、ADAQ4003は、図13に示すEV-ADAQ4003FMCZ 評価用キットを使用します。

図14. ADAQ4003 評価用ボードのブロック図
図14 に示すように、ADAQ4003 評価用ボードには、µModule への外部電圧リファレンス、オプションの入力バッファ、オンボード電源ソリューションがあります。この評価用ボードがコントローラ・ボードであるEVAL-SDP-CH1Z に接続され、評価用ボードとPC の間で通信が可能になっています。この通信を通じて、PC のソフトウェア・インターフェースでデータをキャプチャし表示できます。また、ソフトウェアを用いてスループットや動作モードなどのµModule の機能を設定できるようになります。評価用キットを用いることにより、システムの一部としてのアナログ・デバイセズのソリューションの性能を迅速に把握できます。
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µModule内部のシグナル・チェーン・ブロック(ADCドライバ/リファレンス・バッファ/RCフィルタ)の設計は「高精度シグナル・チェーンµModule® – 上級編」 で解説しています。(無料・要登録) |
セルフ・チェック
- ここで挙げたµModule (ADAQ7980 、ADAQ4003 、ADAQ7768-1)において、通常どのシグナル・チェーン・ブロックが高精度シグナル・チェーンµModule に統合されていますか。
- 抵抗の公差を10%とすると、反転アンプ構成の回路の最大ゲイン誤差はどうなりますか。
- 同じ回路にiPassives を用いる利点は何ですか。
- スペースに制約のあるデータ・アクイジション・システムのみが5V の単電源レールを使用します。µModule の中でこのアプリケーションに適しているのはどれですか。
- ADAQ7980
- ADAQ4003
- ADAQ7768-1
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参考資料
アナログ・デバイセズ、「高精度シグナル・チェーンµModule ソリューション | アナログ・デバイセズ」
Mark Murphy、Pat McGuinness、「SiPモジュールに集積型の受動 部品を組み込む | アナログ・デバイセズ」アナログ・ダイアログ、 Volume 52、Issue 10、2018 年10 月。
アナログ・デバイセズ、「状態基準保全 | アナログ・デバイセズ」