著者:DOSullivan
前回は、モータ・ドライブのAC入力段について説明しました。この部分で行われる本質的な処理はACからDCへの電力変換です。つまり、ACの入力電力をDCに変換し、メインの3相インバータに供給するということが行われます。モータ・ドライブには、インバータ用の高電圧の電源領域とは別にいくつかの電源領域が必要になります。可変速ドライブを設計する際には、それらの電源領域を管理し、グラウンド基準に対する絶縁を実現して外部のトランジェントからの保護を実現しなければなりません。今回は、可変速ドライブ(VSD:Variable Speed Drive)におけるパワー・マネージメントについて検討し、各種の電源領域で満たすべきいくつかの要件を確認します。図1に、前回紹介したドライバの代表的なアーキテクチャを示しました。今回もこのアーキテクチャをベースとして解説を進めます。水色で囲った部分に注目して検討を行うことにしましょう。
図1. 可変速ドライブの代表的なアーキテクチャ
可変速ドライブには、主に以下のような電源が必要になります。
これらの電源は、それぞれ固有の機能を実行するために使用されます。そのため、それぞれには特定の要件が存在します。以下では、制御用の主電源とインバータ用の絶縁型電源について検討することにします。
制御用の主電源
通常、制御用の主電源としては24V(または12V)のDCバスが使用されます。この電源はいくつかの役割を果たすことになります。1つは、各所に分配される低電圧の生成元となる中間DC電圧としての役割です(図2)。また、ドライブのハウジング内で使われる冷却ファンやモータ・ブレーキなど、高電圧を使用する他の負荷に直接給電するために用いられることもあります。
図2. 制御用の主電源
通常、制御用の主電源の電圧は、高電圧のDCバスを基に絶縁型のDC/DCコンバータを使用して生成されます。あるいは、AC入力相の1つから直接生成されることもあります。どちらの場合にも、電源トポロジとしては一般的にフライバック・コンバータが選択されます。ただ、フライバック・コンバータは最良のパワー・コンバータだとは言えません。非常にノイズが多いことに加え、出力電圧を厳密に制御するのが難しい場合があるからです。しかし、フライバック・コンバータには大きな長所もあります。それは、トランジスタと磁気部品を1個ずつ使うことでシンプルに構成でき、コストを抑えられるというものです。つまり、可変速ドライブにおいてフライバック・コンバータを採用すれば、コストの面で競争力を高めることができます。また、可変速ドライブはそもそもそれ自身が大きなノイズの発生源です。そのため、フライバック・コンバータの長所が、ノイズが大きいという短所に勝るケースも少なくありません。
図3に示したのは、アナログ・デバイセズのソリューションの一例です。このソリューションには1つの大きな長所があります。それは、出力電圧の値をコントローラにフィードバックするためにオプトカプラを使用する必要がないというものです。それでも、出力電圧を適切に制御することができます。つまり、「オプトカプラを必要としないフライバック・コンバータ」が実現されているのです。より出力が大きい可変速ドライブでは、フライバック・コンバータは適切な選択肢にならない可能性があります。そのような場合には、ハーフブリッジまたはフルブリッジの絶縁型トポロジ(LLCコンバータなど)が一般的に選択されます。
図3. オプトカプラを必要としないフライバック・コンバータ
インバータ用の絶縁型電源
インバータでは、ゲート・ドライバ・ユニットによってパワー・スイッチの制御を行います。そのゲート・ドライバ・ユニットごとに、絶縁型電源が必要になります。ゲート・ドライバとインバータについてはいずれ解説する予定ですが、今回はインバータ用の絶縁型電源に焦点を絞って検討を進めます。通常、この用途には2種類の電源レールが必要になります。1つは、12V~20Vの電源レールです。具体的には、モータの3つの相のスイッチング・ノードを基準とする3つの電源レールが必要になります(負の電源レールが必要になることもあります)。それに加え、DCバスの負のレールを基準とするロー・サイドの電源も1つ必要です。これらの電源のグラウンドは、安全なアースはもちろん、安定したグラウンド基準にさえ接続されません。そのため、ゲート・ドライバ用の電源では電圧が数百V以上に急上昇することがあります。この問題に対処するために必要なのが絶縁です。
上記の要件を満たすために、通常、インバータ用の絶縁型電源としては絶縁型DC/DCコンバータが4つ必要になります。それらによって、中間DCバスからゲート・ドライバ用の電源電圧を生成します。各DC/DCコンバータは、パワー・トランジスタをスイッチングするための電圧レベルを供給できるように設計されます。パワー・トランジスタとしては、パワーMOSFET、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、シリコン・カーバイド(SiC)/窒化ガリウム(GaN)デバイスなどが使用されます。
一般に、モータの各相に対応して接続される電流センサーにも絶縁型の電源が必要になります。その電源は、多くの場合、LDO(低ドロップアウト)レギュレータを使用し、ゲート・ドライバの電源を基にして直接生成されます(図4)。
図4. インバータ用の絶縁型電源
マルチ出力のフライバック・コンバータは、可変速ドライブ用の電源電圧を生成するためのものとして有効に機能します。但し、いくつもの出力が必要になることから、トランスの設計が非常に複雑になると共に、サイズが大きくなってしまう傾向があります。
まとめ
可変速ドライブで使用する各電源は、ドライブ全体としての動作を実現するために様々な役割を果たします。そうした電源においては、電気的な安全性を確保するための絶縁と、電圧基準のレベルのガルバニック絶縁が重要になります。次回は、今回の続きとなる話題を取り上げます。具体的には、様々な制御回路や出力回路に必要な電源について解説します。また、電源サブシステムに必要な保護機能について検討を行います。