産業用オートメーションに進化をもたらすPCIe用の絶縁技術

産業用オートメーションに進化をもたらすPCIe用の絶縁技術

著者:aine

前回の記事では、デジタル・ヘルスケアの分野に適したHDMI(High-Definition Multimedia Interface)信号の絶縁手法について説明しました。今回は産業分野に目を向けてみることにします。この分野で大きな進化が見られる領域としては、スマート・マニュファクチャリング、産業用オートメーション、予知保全が挙げられます。いずれの領域においても、エッジにおける処理を高速化し、効率を高めることが求められています。

産業用オートメーションで使われる高速信号の絶縁

多くの分野では、大量のデータを処理するために従来よりもはるかに高いレベルの処理能力が求められるようになりました。その目的は、有益な洞察を生成し、リアルタイムの意思決定を実現し、レイテンシと全体的なコストを低減することです。このような状況の下、産業分野ではどのような変化が生じているのでしょうか。端的な例を挙げると、産業分野では重要な情報を収集するためのセンサーの数が急増しています。それらは、システムを確実かつ効果的に稼働させるために利用されます。結果として、エッジにおける処理については拡張性と柔軟性を高めることが求められるようになりました。

ここでは、ファクトリ・オートメーションについて考えてみます。従来のファクトリ・オートメーションでは、必要な処理と制御を行うために過酷な環境下でPLC(Programmable Logic Controller)を稼働させていました。オートメーション・システムを高い信頼性で動作させるためには、高いレベルの堅牢性を実現しなければなりません。従来、そうしたシステムで使われる機器の処理能力は限られており、単純なデータ処理しか実行できませんでした。それに対し、現在ではエッジで実行される処理の量が急増しています。その処理能力は、従来よりもはるかに高い性能を備えるCPU/GPUによって強化されるようになりました。結果として非常に重要になったのが、それらのデバイス間の相乗効果です。その相乗効果は、応答性の向上、データの最適化、レイテンシの低減、堅牢性の向上に役立てられるからです。

アナログ・デバイセズは、産業分野での利用に最適な絶縁技術を提供しています。それらを利用すれば、大電流に伴うノイズや動的な負荷条件によって生じるグラウンド間の大きな電位差に起因する故障を回避できます。また、均等化電流を簡単に防止し、高いコモンモード過渡耐性を実現することが可能になります。アナログ・デバイセズの絶縁技術は、非常に堅牢なソリューションだと言えます。

PCIeとは何か?

PCIe(Peripheral Component Interconnect Express)は、コンピュータ用の高速なシリアル拡張バスです。2003年に標準規格となり、GPU/マザーボードの主要なインターフェースの1つとして広く活用されています。PCIeの特徴は、Gbpsレベルのデータ転送速度(以下、ギガ・スピード)に対応できる点にあります。第1世代のPCIe Gen1では2.5GT/sだったデータ転送速度が、PCIe Gen6では64GT/sに達しました。効率的かつ高速なデータ転送を実現するために、PCIeは全二重通信方式を採用しています。自宅のPCやノート型PCを拡張した経験のある方なら、恐らく目にしたことがあるはずです。では、産業用オートメーションの分野でPCIeを採用することにはどのような意味があるのでしょうか。

PCIeのインターフェースは、イーサネットを使用するコントローラやUSB対応機器など、あらゆるデバイスの間のあらゆる高速インターフェースへの接続を可能にします。通常、PCIeのインターフェースは、LVDS(低電圧差動信号:Low Voltage Differential Signaling)のペアを利用するシリアル・バスとして構成されます(PCIeの詳細についてはこちらを参照してください)。PCIe Gen1の場合、各方向で2.5Gbpsの転送速度が得られる1本の送信ラインと1本の受信ラインによってペアが構成されます。PCIeは最大32ペアまでの異なるバス幅をサポートしますが、以下では2ペアの場合を対象として説明を進めることにします。その内容を発展させれば、異なるバス幅にも簡単に対応できるはずです。

PCIe Gen1に対する絶縁

PCIeの絶縁において重要なのは、シグナル・インテグリティの維持を保証することです。つまり、すべての信号が失われることなくそのままの状態で絶縁バリアを通過できるようにする必要があります。PCIeのプロトコルに対応して適切な絶縁を実現するには、ギガ・スピードでデータを通過させなければなりません。それだけでなく、以下に示す要件を満たす必要があります。

  • 電気的なアイドル状態を正確に伝達する:これは信号の状態遷移を伝達するために必要なことです。リンクが一時的に非アクティブな状態に移行したことを示すと共に、低消費電力の状態の開始/終了、リンクの速度の変化を通知しなければなりません。例えば、PCIeの仕様では、レシーバーの差動電圧が175mVを超えていれば非アイドル状態、65mV未満であればアイドル状態であると定められています。
  • 信号の堅牢性を維持する:PCIeを利用するシステムで信頼性の高い通信を実現するためには不可欠なことです。

PCIeのギガ・スピードに対応可能な絶縁用のソリューション

ADN4622」はLVDS信号の2つのペアを絶縁することが可能なアイソレータICです。この種のアイソレータは、PCIe Gen1に対応する上で非常に重要な構成要素となります。ただ、PCIe Gen1の信号と調和した形でそれらを動作させる方法を理解しておかなければなりません。

PCIeのプロトコルの主要な動作を完全にサポートするには、すべての信号の仕様を考慮する必要があります。まず、ADN4622を通過する信号の遷移をサポートするにはレベル・シフトが必要です。また、電気的なアイドル状態を確実に伝達する機能がサポートされていなければなりません。これらは、ADN4622の入力側と出力側に配置されたカップリング回路によって実現されます(図1)。それらのカップリング回路に加えて、入力側と出力側の両方でPCIeリドライバ「MAX14954」も使用します。同ICはイコライゼーション機能も備えており、シグナル・インテグリティを改善する役割を果たします。

PCIeでは、同期を実現するために100MHzのリファレンス・クロック(REFCLK)が使用されます。この信号は、データ伝送を開始するに当たって必須の要素となります。その絶縁は、アイソレータIC「ADN4620」を使うことで簡単に実現できます。

システム管理バスは、I2Cの原理に基づいて動作する2線式の信号ラインです。それらにより、システムのデバイスとの間で情報の伝達を行います。このバスの絶縁は、I2Cに対応するアイソレータ「ADuM1252」を使うことで実現できます。

PCIeのプロトコルを適切にサポートするには、ハイからローまたはローからハイの信号を正確に伝達する必要があります。その種の信号としては以下に挙げるようなものがあります。まず、WAKEとCLKREQは低消費電力の状態を伝達するために使用されます。また、PERSTはリンクをリセットするために使われる信号です。この信号も適切な動作を実現するために必要になります。加えて、エンドポイントからルート・コンプレックスに向かって(ならびにその逆方向に向かって)、リンクの初期化に関する情報を適切に通知することも重要です。PRNSTは、カードが両端に正しく挿入されており、すべての電源と信号ピンが接続されていることを表します。これにより、カードが正しく挿入されていない状態で電源が投入されて損傷が生じるという事態を回避できます。これらの信号の絶縁には、汎用デジタル・アイソレータIC「ADuM341」を使用するとよいでしょう。

 Isolation of PCIe Gen 1 interface utilizing ADI’s isolation technology

図1. PCIe Gen1のインターフェースの絶縁。アナログ・デバイセズの絶縁技術を活用しています。

なお、図1にはバリアをまたぐ完全な絶縁を保証するためのパワー・ソリューションが含まれていません。そのような絶縁型の電源は、フライバック・コンバータ「LT8302」を使用することで簡単に実現できます。

まとめ

今回は、産業環境においてPCIe Gen1のプロトコルに対応した絶縁を実現する方法を紹介しました。その方法は、堅牢性、ノイズ、保護に関連する要件を満たしつつ絶縁を実現する必要がある任意のアプリケーションに適用可能です。図1に示したギガ・スピード対応の回路を複製すれば、より広いレーン幅に対応するよう簡単に拡張を施すことができます。

ギガ・スピードに対応する絶縁技術について詳しく知りたい方は、こちらのページを参照してください。