著者:石井 聡
Noise Figureは分かったようでわからない指標であるといえますし、いろいろな書籍や記事では、その具体的な定義が不明瞭に解説されているようすも散見します。このブログでは、複数回にわたり、Noise Figureが何者かを解きほどいていきたいと思います。
最初(本記事)はNFの定義について明確にします。つづいて以降の記事では、実際の増幅系でのNFの適用方法、OPアンプなどにおけるNFの最適化などを説明していきながら、最後はRFアンプにおけるNF円について説明します。
NFの基本定義
図1にNFの超基本的な定義を示します。増幅回路の入力のSN比をSNin、出力でのSN比をSNoutとすると、Noise Figureの真値(これをNoise Factorと呼ぶことが多いです)は、
となります。これを20 logしたものがdBで表されるNoise Figure(よく使われるもの。これをNoise Figureと呼ぶことが多いです)になります。Web等でよく見る記事では、これしか記述がなく、「だから何なの?」と思うのではないでしょうか。「信号のレベルSは信号源の振幅や増幅率、もしくは測定により明確だが、ノイズのレベルNはどう考えるのか」とも思うのではないでしょうか。そして「NFは電圧の単位で考えれば(計算すれば)よいのか?」と戸惑うのではと思います。
図1 NFの超基本的な定義
NFは図2に示すOPアンプ増幅回路、図3に示すトランジスタ増幅回路などで活用されるものです。これを一般化した図4をもとに話しを進めていきましょう。
図2 OPアンプ増幅回路
図3 トランジスタ増幅回路
図4 増幅回路を一般化した図
入力のSN比の要素
図4において、まず入力のSN比、SNinのSinは信号源の振幅レベル実効値 s [V]の自乗になります。これは抵抗を1Ωとしたときの電力に相当します。またSNinのNinは信号源抵抗から生じる熱ノイズの電圧振幅レベル実効値 nRs [V]の自乗になります。ポイントとして
- 抵抗からは実効値 n = √4kTRB [V]となる熱ノイズ電圧が自然的に生じる。これは抵抗内の電子のブラウン運動が電気エネルギーに変換されたもの。ここでkはボルツマン定数[J/K] 、Tは絶対温度[K]、Rは抵抗値[Ω]、Bは帯域幅(ただし矩形フィルタで帯域幅が規定される)[Hz]。
- B = 1Hzとすればn = 4.07nVになる(密度電圧として4.07nV/√Hzと表す)
- 信号源のSN比とは、ピュアな信号源電圧が存在し、これに熱ノイズ電圧が加算されたものとして定義されるもの
- つまり入力のSN比SNinのNinは、信号源抵抗の熱ノイズ電圧の自乗
これにより
と定義できることになります。なお、帯域幅Bはどう考えるかはとりあえず置いておいてください(最後に説明します)。つまり入力(信号源)のSN比SNinの要素は、図5のように表されることになります。
図5 入力(信号源)のSN比SNinの要素
出力のSN比の要素
つづいて出力のSN比、SNoutを考えます。まずSoutです。信号源の振幅 s [V]は増幅回路の電圧増幅率Aで増幅され、As [V]として出力に現れます(図6)。Soutはこの自乗[Sout = (As)2]になります。
Noutは信号源抵抗の熱ノイズnRsがA倍されたものと、増幅回路内部で生じたノイズが「足し算」されて出力に現れます。これは図7のようにモデル化することができ、Nout = (AnRs)2 + (nadd)2となります。
信号源抵抗の熱ノイズと増幅回路の内部ノイズは、単純に電圧実効値を足し算するかたちではなく、それぞれを自乗してから足し算しています。これは熱ノイズと内部ノイズがお互いに無関係に振る舞っている(これを「無相関」といいます)ので、自乗してから足し算します。これは電力での足し算と同じ考え方です。
これでSoutとNoutが得られました。これにより出力のSN比は
と定義できることになります。
図6 増幅回路出力のSN比のSout[Sout = (As)2]
図7 増幅回路出力のSN比のNout[Nout = (AnRs)2 + (nadd)2]
これらの検討からNFを計算すると
これらの検討からNF(真値。Noise Factor)は以下のように計算することができます。
この式は以下のように整理できます。
なんと!信号源の電圧s [V]が式から消えています。まずここで、NFとは信号レベルに関わらず、回路におけるノイズごとの影響度であることが少なくとも分かりますね。
つづいてnaddについて考えてみましょう。これは上記の式(5)や図7から分かるように、増幅回路の出力で足し算されていますから、「出力換算」になります。これを図8のように入力換算(nadd_in)としてみます。そうするとnaddを増幅率Aで割り戻すことになりますので、
となります。これを一つ上の式(5)に代入してみると、
なんと!増幅回路の増幅率も式から消えています。このようにNFとは信号レベルや増幅率に関わらず、増幅回路の入力換算電圧ノイズnadd_inと、信号源抵抗から発生する熱ノイズnRsとの比に1を足したものになります。つまりNFは増幅回路のノイズを入力換算としたときの「増幅回路における内部ノイズの付加率を表す指標」となるわけです(図9)。
増幅回路がノイズを発生させなければF = 1になり、これがベストな状態となります。
図8 図7のnaddを入力換算(nadd_in)にしてみた
図9 NFは「増幅回路における入力換算内部ノイズの付加率を表す指標」
NFは1Hz帯域(電力密度)を用いて表されることが多い
厳密にNFを議論するときは、1Hz帯域(電力密度)を用いて表されます。図10はRFローノイズ・アンプADL5523のデータシートから抜粋したNFのグラフです(Noise FigureとしてdBで表されています)。
つまり先にしめした式(7)において、それぞれの要素を1Hzとして(BもB = 1として)以下のように表記します。
図10 NFは1Hz帯域(電力密度)を用いて表される
まとめ
NFは増幅回路のノイズを入力換算としたときの「増幅回路における内部ノイズの付加率を表す指標」です。信号のレベルがいくつかには関係ありません。
また厳密・具体的には、1Hz帯域あたりの電力密度で表現・議論します。