Noise Figure完全理解(第2回)増幅回路が従属接続された場合の全体のNF

Noise Figure完全理解(第2回)増幅回路が従属接続された場合の全体のNF

著者:石井 聡

第1回では、NFについてその基本的な定義を解説しました。NFは増幅回路のノイズを入力換算としたときの「増幅回路における、信号源熱ノイズに対する内部ノイズの付加率を表す指標」ということをご理解いただけたかと思います。

今回は増幅回路が従属接続された場合の全体のNFをどう考えるかについて説明します。

NFの基本定義

おさらいとして、図1にNFを考える上での基本形態をしめし、式(1)にNFの式を示します。

ここでnRs(1Hz) = √(4kTRS) [V]は信号源抵抗から発生する熱ノイズの1Hz帯域の電圧密度です。自乗することで電力相当になります。Naddin(1Hz)は増幅回路の入力換算電圧ノイズの1Hz帯域密度です。これも自乗することで電力相当になります。

図1 (おさらい)NFは「増幅回路における入力換算内部ノイズの付加率を表す指標」

従属接続された増幅回路の出力に現れる増幅回路から生じるノイズ

図2のように増幅回路が3段、従属接続された場合を考えてみましょう。このノイズに関するモデルは図3のように記述できます。なおそれぞれの記号の添え字は簡略しました。

ここではこの全体のNFがどうなるかを説明します。


図2 今回考える3段に従属接続された増幅回路

図3 図2をノイズの視点で記述しなおした

まず、それぞれのノイズ成分が増幅回路3の出力にどのように表れるかをまず考えます。表にして判りやすくしてみましょう。

表1 出力に現れる各ノイズ成分の大きさ

出力での増幅回路全体から生じる合計のノイズ量naddoutは(信号源抵抗の熱ノイズは除外して)

それぞれのノイズは無関係(無相関)なので、自乗されたもの同士の足し算になります。

出力に現れる増幅回路から生じる内部ノイズを全体の入力換算してみる

つづいてこの3段増幅回路を1段の増幅回路(増幅率A1A2A3)と考えなおして、出力での合計のノイズ量naddoutを入力換算にしてみましょう。そうすると、図4のように描けることになります。これを式として、さらに自乗したかたちで表すと、

これを変形させ

としておきましょう。これを式(2)に代入すると、

これをn2addinについて解くと、

図4 3段の増幅回路の従属接続を合体させて、全体の内部ノイズを入力換算でモデル化した

得られた入力換算ノイズからNFを計算してみる

得られた式(6)を使って、増幅回路が従属接続された場合の全体のNFを計算してみましょう。NFの真値(Noise Factor)を得る式は、

ここでnRsは信号源抵抗の熱ノイズの電圧実効値です。naddinは増幅回路で付加されたノイズの電圧実効値の入力換算量です。式(6)を式(7)に代入してみると、回路全体のNFの真値Ftotal

さらに整理すると

となります。これから分かることは、

  • 増幅回路1の内部ノイズnA1は、式(7)同様、信号源抵抗の熱ノイズの電圧実効値nRsとの比になる
  • 増幅回路2の内部ノイズnA2は、式(7)と比較してみると、信号源抵抗の熱ノイズの電圧実効値nRsとの比が前段の増幅回路1の増幅率A1で割られることになる(NFへの影響度が1/A1になり、影響度が低減する)
  • 増幅回路3の内部ノイズnA3は、式(7)と比較してみると、信号源抵抗の熱ノイズの電圧実効値nRsとの比が前段の増幅回路1, 2の増幅率A1A2で割られることになる(NFへの影響度が1/A1A2になり、影響度がほぼ無くなる)
  • つまり全体のノイズ特性は増幅回路1の内部ノイズの影響度が支配的になる

箇条書きの最後の部分は非常に重要な事項で、「初段/入力段をできるだけローノイズな回路にする必要がある」という結論に至ります。

増幅回路の各段のNFから全体のNFを計算してみる

増幅回路の各段を分割して、個別増幅回路のNFを考えてみましょう。これを図5のようにモデル化します。「2段目は1段目のOPアンプ出力で駆動されるから(3段目も同じ)、このような仮定はおかしいだろう」と思うかもしれませんが、次の節で示す50Ω系の高周波アンプ従属接続でのNF計算での回路が基本の考え方になっていますので、ここでは「こういうモデルで考えましょう」という感じで理解してください。

このようにすると各段のNFは、

式(10), (11), (12)の右辺第1項を以降して、左辺を式(9)に代入すると、

が得られます。各段のNFの真値から1を引いて、信号源から前段までの電圧増幅率の自乗で割ったものどうしを足し合わせると、トータルのNFが計算できることが分かります。

これは次の節に続きますが、50Ω系の高周波アンプ従属接続でのNF計算で(その意味が明確ではないままで)よく引用される式になるのです。

図5 増幅回路の各段を分割して個別のNFを考えるモデル

50Ω系の高周波アンプ従属接続でのNF計算

上記で「50Ω系の高周波アンプ従属接続でのNF計算での回路が基本」と説明しましたが、このことをもう少し深堀りしてみたいと思います。

通常、高周波アンプは図6のように各段(ここではxとしました)は信号源抵抗、増幅回路の入力・出力抵抗、そして負荷抵抗は、50Ωで整合されています。そのため、式(10), (11), (12)のnRsは50Ωから発生する熱ノイズというかたちで、同じかたちで正しく規定できます。つまりこれらの式が明確に成立することになります。

またそれぞれが整合されているため、増幅は電力の単位で考えることが一般的です。図6にも示しましたが、この場合、電圧増幅率AXと電力増幅率PXの関係は

となります。この関係を式(13)に代入してみると、

ここでP1, P2は増幅回路1, 2の電力増幅率です。このように非常に簡単なかたちで従属接続したときの全体のNFを表現できることになります。そしてこれが書籍や記事でよくみる式になります。この式(13)が最初に提示されるだけだと、「これは何だ?」となりますが、このようにひとつずつ理解していけば納得できるのではないでしょうか。

図6 50Ω系の高周波アンプは各部分の抵抗は50Ωで整合されている

まとめ

今回で重要なことは、「初段/入力段をできるだけローノイズな回路にする必要がある」という結論です。これはアナログ信号を扱うどのようなシステムにおいても非常に重要な概念です。