著者:石井 聡
ここまでNFの定義について深掘りして説明してきました。繰り返しますが、NFは増幅回路のノイズを入力換算としたときの「増幅回路における、信号源熱ノイズに対する内部ノイズの付加率を表す指標」です。
今回は補足もふくまれますが、NFと信号源抵抗の大きさとの関係について説明します。
(おさらい)NFの基本定義
おさらいとして、図1にNFを考える上での基本形態をしめし、式(1)にNFの式を示します。

ここでnRs(1Hz) [V]は信号源抵抗から発生する熱ノイズの1Hz帯域の電圧密度で
![]()
式(1)ではこれを自乗することで電力相当になっています。naddin(1Hz)は増幅回路の入力換算ノイズ(電圧量)の1Hz帯域密度です。これも式(1)では自乗することで電力相当になっています。
またこの図1では、信号源抵抗RSと信号源自体も記述しており、以降の説明の導入としています。

図1 (おさらい)NFは「増幅回路における入力換算内部ノイズの付加率を表す指標」
信号源抵抗の大きさが変わるとNFが変化する
NFは「内部ノイズの付加率の指標」ということで、NF = 1が最良になります。この条件ではシステムのノイズは信号源抵抗から発生する熱ノイズのみに支配されます。つまり回路をどのようにがんぱって構成しても、これ以上の性能を得ることができません。ここが限界レベルとなります。
一般的に信号源は何らかの信号源抵抗(信号源インピーダンス)を持っており、それを変化させることはできません。式(1)、式(2)から分かることは、信号源抵抗が大きい場合は、そこから生じる熱ノイズが大きくなるということです。
センサを例にしたいと思いますが、図2のように発生する信号源電圧が等しく、信号源抵抗が1kΩ、10kΩで、10倍の異なる2種類のセンサがあったとします。またその信号を増幅する増幅回路は同じもので、その入力換算ノイズ(電圧量)は信号源抵抗の大きさに関わらず一定とします。

図2 発生する電圧が等しく信号源抵抗が1kΩ、10kΩで、10倍の異なる2種類のセンサ同一の増幅回路に接続する
このふたつの条件でNFを計算してみます。信号源抵抗がRS = 1kΩのときは、1Hz帯域密度(電圧量)は式(2)から、n(1K)Rs(1Hz) = 4.07nV/√Hzと計算できます。またRS = 10kΩのときは、n(10K)Rs(1Hz) = 12.9nV/√Hzと計算できます。いま、naddin(1Hz) = 10nV/√Hzと仮定してそれぞれNFを計算してみると、


と計算でき、出力に現れる信号レベルは同じであるにも関わらず、信号源抵抗がRS = 10kΩのときのほうがNFは良くなる計算になります。このとき式(2)から分かることは、「信号源抵抗の熱ノイズはRS = 10kΩのときのほうが大きい」ということです。
NFは「与えられた信号源抵抗の条件で、増幅回路側でどれだけ低ノイズ化をがんばれるか」ということ、その信号源抵抗の条件で検出できる限界レベルを表すだけで、どれだけ低レベルの信号を検出できるかという直接論とは異なる指標であることが分かります。
NFは良化すれども信号は熱ノイズに隠れる
図1の信号源の大きさs [V]が小さいと、信号源抵抗で発生する熱ノイズnRs(1Hz)に信号が隠れてしまいます。このイメージを図3以降に示します。これは直感的に理解できることでしょう。
図3は、図2における増幅回路の入力換算ノイズ(電圧量)がゼロ(naddin(1Hz) = 0)で、信号源s [V]と信号源抵抗RSから発生する熱ノイズnRsのみが存在し、それを増幅回路の出力で観測したスペクトラムのイメージです。とりあえず信号周波数は40kHzとしていますが、信号の周波数とレベル、周波数によらず一定に存在するノイズ・フロアのレベルは適当なもの(イメージ)だと考えてください。
なお図3での仮定として信号源抵抗がRS = 1kΩ、つまり熱ノイズn(1K)Rs(1Hz) = 4.07nV/√Hzとします。
つづいて図4は、信号源抵抗がRS = 10kΩ、つまりn(10K)Rs(1Hz) = 12.9nV/√Hzとしたときのスペクトルです。熱ノイズのレベルが√10倍に上昇し、-100dBのあたりにあったノイズ・フロアが-90dBあたりに上昇しています。信号レベルは同じなので、図3においては信号のスペクトルが見えているのに対し、図4では、信号のスペクトルがノイズに隠れてしまっています。
図3は式(3)の条件に相当し、naddin(1Hz) = 10nV/√HzからNFは7.04です。図4は式(4)の条件に相当し、NFは1.60です。図4のほうが信号のスペクトルがほとんど隠れているのもかかわらず、NFが良好になっています……。
これは、NFの定義が(繰り返しますが)「与えられた信号源抵抗の条件で、増幅回路側でどれだけ低ノイズ化をがんばれるか」というものを示すだけで、信号レベルと信号源抵抗から発生する熱ノイズとの関係は視野に入っていないのです(この関係がSNin)。
そのためにこのような結果になるわけですね。逆にいうと、「信号源抵抗の大きさが小さいほうがより小さい信号源電圧を検出できる」という話しにもなるわけです。

図3 信号源抵抗がRS = 1kΩ(n(1K)Rs(1Hz) = 4.07nV/√Hz)で出力を観測したスペクトラム

図4 信号源抵抗がRS = 10kΩ(n(1K)Rs(1Hz) = 12.9nV/√Hz)で出力を観測したスペクトラム
増幅回路には電圧性ノイズと電流性ノイズがある
「それではNFの数値だけ(見た目)を上昇させたいのなら、信号源抵抗値を大きくしていけばいいんだ」と直感的に思うのも当然でしょう。しかし実際の増幅回路ではそううまくいきまません。
増幅回路内部には、内部の熱ノイズを主な源とする電圧性ノイズと、内部のショット・ノイズを主な源とする電流性ノイズが存在します。
ここで「ショット・ノイズ」とは、1個の電子(電流)が半導体のPN接合を通過するときに生じる電流のゆらぎに相当するノイズです(図5)。ショット・ノイズは「電流のゆらぎ」のとおり電流性ノイズで、PN接合に流れる電流量に比例し、1Hz帯域密度での定義において

となります。ここでqは電荷素量(1.6×10-19 C)、Iは流れる電流量(単位はA)です。

図5 ショット・ノイズ発生のしくみ
しかし実際のトランジスタやOPアンプでは、このショット・ノイズをそのままに扱わず、入力に現れる電圧性ノイズ(源は半導体内部の熱ノイズとこのショット・ノイズ)と電流性ノイズ(源はショット・ノイズ)に分類して取り扱います。
このようすを図6に示します。この図では信号源と信号源抵抗も付記しています。この図のように増幅回路から生じる電圧性ノイズvnと電流性ノイズinは、入力端子に直列に接続される電圧源、並列に接続される電流源としてモデル化されます。また一般的に1Hzの電圧密度/電流密度で表し、議論します。
電圧性ノイズvnと電流性ノイズinはその源が何かということには関係なく、増幅回路入力において、その性質で生じるノイズを意味しています。
これらは実際のOPアンプのデータシートでも記載されており、図7や図8のように掲載されています。ここでも1Hzの電圧密度/電流密度で表していることが分かります。ADA4898-1/-2においては、電圧性ノイズ密度がnVのオーダ、電流性ノイズ密度がpAのオーダになっています。

図6 増幅回路の入力にモデル化される電圧性ノイズと電流性ノイズ(信号源と信号源抵抗も付記した。1Hz密度で表すことが多い)

図7 ADA4898-1/-2のデータシートに記載されているノイズ性能(1Hzの電圧密度/電流密度で表されている)

図8 ADA4898-1/-2のノイズ性能の周波数特性(1Hzの電圧密度/電流密度でプロットされている)
電流性ノイズがNFに与える影響
「NFの数値だけ(見た目)を上昇させたいのなら、信号源抵抗値を大きくしていけばよいか」について、電流性ノイズを追加した場合にどうなるかを深掘りしてみましょう。
考えるべきノイズ源をひとつずつ見ていきます。1Hz密度で考えますが、使用する用語/記号は密度としての表記(1Hz)をせず、簡略化しています。
- 信号源抵抗RSによる熱ノイズnRs(電圧量 [V/√Hz])
- 増幅回路の入力換算の内部電圧性ノイズvn(電圧量 [V/√Hz])熱ノイズnRsに直列になる
- 増幅回路の入力換算の内部電流性ノイズin(電流量 [A/√Hz])信号源抵抗RSに流れることで、in×RSで電圧降下としての電圧量になる
これらにより、増幅回路の入力換算ノイズ(電圧量)の1Hz帯域密度naddinは、

NFは

となり、信号源抵抗を大きくしても、NFは良化しないことが数式上で分かります。
式だけですと分かりづらいので、実際にADA4898-1/-2の数値を使って計算してみましょう。
図7の上のプロットは信号源抵抗の大きさと各ノイズ源の量(青 = 信号源抵抗の熱ノイズ, 黒 = 電圧性ノイズ、赤 = 電流性ノイズによる信号源抵抗での電圧降下)です。抵抗値が大きくなると、青 = 信号源抵抗の熱ノイズは、抵抗値の平方根で増大し、赤 = 電流性ノイズによる信号源抵抗での電圧降下は、抵抗値に比例して増大しています。
下のプロットは回路全体のNFですが、信号源抵抗が375Ωを超えるとNFが増大に転じていることが分かります。

図7. ADA4898-1/-2における信号源抵抗の大きさと各ノイズ源の量(青 = 信号源抵抗の熱ノイズ, 黒 = 電圧性ノイズ、赤 = 電流性ノイズによる信号源抵抗での電圧降下)、回路のNF
まとめ
今回分かったことは、
- NFの定義は「与えられた信号源抵抗の条件で、増幅回路側でどれだけ低ノイズ化をがんばれるか」というものを示すだけ
- 信号レベルと信号源抵抗から発生する熱ノイズとの関係を示すものではない(この関係がSNin)
- NFの数値だけ(見た目)を上昇させたいのなら、信号源抵抗値を大きくしていけばいいのか、というのは…
- 増幅回路に電流性ノイズがあることから、そうだともいえない