モータ用のエンコーダに関する最新動向

モータ用のエンコーダに関する最新動向

著者:Richard Anslow、Michael Jackson

この連載の以前の記事では、モータ用のエンコーダの歴史を振り返ると共に、その現状について俯瞰しました。モータをトラッキングするための技術が誕生したのはかなり昔のことです。かといって、それらの技術はそのままの形で停滞しているわけではありません。今回は、モータ用のエンコーダの分野に見られる技術動向、アプリケーション、イノベーションについて解説します。

通信に伴う遅延をより小さく抑える

Rockwell Automationは、サーボ・ドライブ、エンコーダ、エンコーダの通信ポートに関する調査を実施しました。それによれば、フィードバック通信用のトランシーバーについては20%の年間成長率が見込まれるといいます。現在は、2本のワイヤによって100Mbpsの通信(IEEE 802.3dg規格の100BASE-T1L)を実現するシングルペア・イーサネット(SPE:Single-Pair Ethernet)に対応したトランシーバーについての検討が行われています。そのトランシーバーは、将来のエンコーダを駆動するためのインターフェースを備えたものになります。遅延については、1.5マイクロ秒以下という目標値が想定されます。そのような遅延性能であれば、フィードバック用のデータ・アクイジションをより迅速に行い、制御ループの応答時間をより短く抑えることができます。

状態基準保全への対応  

ロボティクスやタービン、ファン、ポンプ、モータといった回転機械は、状態基準保全(Conditional Based Maintenance)の対象になります。状態基準保全では、装置の状態や性能に関連するデータをリアルタイムに記録し、最適な制御や、目標とする予知保全の実現を図ります。装置のライフサイクルの初期段階において予知保全を実現すれば、製造工程でダウンタイムが生じるリスクを軽減することができます。また、信頼性の向上、大幅なコスト削減、製造現場の生産性の向上を実現することが可能になります。エンコーダにMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加速度センサーを付加すれば、品質管理の重要性が高い装置で生じる振動の情報をフィードバックすることができます。エンコーダを使用する場合には、ケーブル、通信機能、電源が既に存在していることになります。コントローラに振動の情報をフィードバックする際には、それらを活用することが可能です。このことは、エンコーダにMEMS加速度センサーを付加する上で好都合だと言えます。MEMS加速度センサーで取得した振動のデータはエンコーダからサーボに送られます。CNC(Computer Numerical Control)マシンのような一部のアプリケーションでは、それらのデータを使用してシステムの性能をリアルタイムに最適化することも可能です。

状態基準保全を適用すれば、産業用アセットの耐用年数を延ばすことができます。それを下支えするのが、堅牢性が高くより寿命の長い位置センサーです。磁気センサーは、周囲の磁界の角度位置を表すアナログ出力を生成します。これは、光学エンコーダの代替になるものです。磁気エンコーダであれば、湿度が高い場所や、汚れ、埃の多い場所でも使用することが可能です。光学式のソリューションの場合、そうした過酷な環境では本来の性能や寿命を活かすことができません。

電源の喪失時にもモータの位置情報を保存可能なマルチターン・メモリ

ロボティクスをはじめとするアプリケーションでは、電源が喪失した場合でも機械的なシステムの位置を常に把握しておく必要があります。標準的なロボットやコボット、自動組み立て装置などでダウンタイムが生じると、コストがかさんだり効率が低下したりすることになります。ダウンタイムには、システムの稼働中に突然電源が喪失した後、リホーミングと再起動のために必要になる時間が含まれます。このような問題を解決する方法として、バックアップ用のバッテリ、メモリ、シングルターン・センサーなどが用いられています。しかし、それらのソリューションには限界があります。

例としてバックアップ用のバッテリについて考えてみましょう。バッテリ・パックの寿命には限りがあります。そのため、バッテリの交換について管理するためには保守契約が必要になります。また、環境によっては、バッテリが爆発するおそれがあります。その場合、バッテリ・パックに蓄積できるエネルギーの最大量が制限されることになります。そうすると、バッテリの交換頻度を高めなければなりません。結果として、保守のサイクルが短くなってしまいます。

バックアップ用バッテリに代わるものとしては、ウィーガント・ワイヤを用いたエナジー・ハーベスティング・モジュールを使用する方法が考えられます。そうしたモジュールでは、外側のシェルの保磁力が内側のコアの保磁力よりもはるかに高くなるよう特殊な処理を施したワイヤが使用されます。ここで、保磁力に差があるということは、磁界が回転するとデバイスの出力に電圧スパイクが生じるということを意味します。このスパイクを利用して外部回路に給電することで、回転数の情報をFRAM(Ferroelectric Random Access Memory)に記録することができます。

これらの手法とは対照的なものとして、アナログ・デバイセズは磁気マルチターン・メモリ「ADMT4000」を開発しました。これであれば、外部電源を使用することなく、外部磁界の回転数の情報を記録することができます。これを採用すれば、システムのサイズとコストを低減することができます(図1)。

 Figure 1 Analog Devices’ ADMT4000 Multi-turn Position Sensor Block Diagram

図1. ADMT4000のブロック図

ロボットやコボットにおいて、モータ用のエンコーダや関節用のエンコーダと共に使用するA/Dコンバータ(ADC)には16ビット~18ビットの分解能が必要です。場合によっては22ビットのADCが必要になることもあります。また、光学式のアブソリュート・エンコーダを使用する場合、最大24ビットの分解能を備える極めて性能の高いADCが必要になるかもしれません。図2は、こうした最新動向を視覚的に示したものです。それぞれの要素が相互に関連していることが見てとれます。

 Figure 2 Emerging trends in motor encoder technology

図2. モータ用エンコーダ技術の最新動向

次回は、位置エンコーダ技術のバリエーションとそれらに関連するトレードオフについて説明します。