著者:Ruairí
筆者が知る限り、RF回路は最も不可思議なものです。一部のRF回路は非常に複雑なので、ある程度の前提知識がなければ、マッチングに関する会話に参加できなくなってしまう可能性があります。そのような事態を避けるために、本稿ではRFマッチング回路に関連して知っておくべき5つの事柄について解説します。

【その1】インピーダンス・マッチング
RF回路では、広い周波数範囲にわたってインピーダンスが変動する可能性があります。RFマッチング回路を使用する主な目的は、対象とする周波数範囲においてソースと負荷のインピーダンスをマッチングさせることです。それにより、その周波数範囲における伝送電力を最大化し、反射を最小限に抑えます。そのためには、ソースと負荷の両方のインピーダンスについて正しく理解し、対象とする周波数範囲でマッチングを実現可能な部品を適切に選択しなければなりません。
【その2】周波数応答
RFマッチング回路の性能は周波数に依存します。同回路により、対象とする周波数範囲において所望のレベルのインピーダンス・マッチングが確実に得られるようにすることが重要です。これについて確認するためには、2つの重要なグラフが利用されます。1つはネットワークのリターン・ロスのグラフ、もう1つは挿入損失のグラフです。
リターン・ロスは、インピーダンス・ミスマッチによって伝送線路から信号源に反射する電力の量を表します。反射信号が生じると、送信した信号のすべての電力が受信側まで伝わらないことになります。そのため、反射を最小限に抑えて伝送できる電力を最大化しなければなりません。つまり、リターン・ロスは最小限に抑える必要があるということです。経験則として、許容可能な反射損失のレベルは-10dBほどです。これは送信される信号の電力の約10%に相当します。反射損失が小さいほど良好な結果が得られます。以下に示す2つのグラフのうち右側は、周波数範囲全体にわたるリターン・ロスを表しています。これを見ると、良好な性能を示す領域と性能が低下する領域が存在することがわかります。


一方、挿入損失とは、RFマッチング回路を信号が通過する際に失われる電力量のことです。同回路によって、負荷が利用可能な電力が大幅に減少しないようにするためには挿入損失を最小限に抑える必要があります。例えば、通常は抵抗性の部品だけを使用してRFマッチング回路を構成することはありません。同回路全体で見れば、伝送線路や受動部品、能動部品で損失が生じることが想定されます。信号の伝送性能を維持するには、この損失を最小限に抑える必要があります。挿入損失は0dBに近いほど良好ですが、通常は1dB~2dBが許容範囲になります。

【その3】スミス・チャート
RFマッチング回路の解析と設計には、スミス・チャートと呼ばれるグラフィカル・ツールを使用します。同チャートでは、複素反射係数を極座標にプロットし、インピーダンスを視覚的に表現します。それにより、損失の詳細を把握することができます。円の中心はインピーダンスがマッチングした状態を表し、軸の右端はオープン・サーキット、左端は短絡を表します。また、トレースが水平軸よりも上にある場合はインピーダンスが誘導性であることを表し、下にある場合は容量性であることを表します。

スミス・チャートを使用する場合には、最適なインピーダンス・マッチングを得るために、トレース上の対象周波数ができるだけ中心点に近くなるようにします。そのためには、RFマッチング回路のトポロジをいくつか用い、容量とインダクタンスを増減させることによって調整を実施します。
【その4】マッチングのために用いる手法
RFマッチング回路は、直列LC回路やシャントLC回路といったいくつかの手法を適用して設計されます。どのような手法を選択するのかは、必要なインピーダンス・マッチング比と周波数範囲によって異なります。具体的には以下のような手法が用いられます。
直列マッチング:直列マッチング回路は、伝送線路に直列に接続された受動素子(インダクタやコンデンサなど)によって構成されます。
シャント・マッチング:シャント・マッチング回路は、伝送線路に並列に接続された受動素子によって構成されます。
π/L/Tマッチング:π型、L型、T型のマッチング回路は、直列素子とシャント素子を組み合わせることによって構成されます。
特定のアプリケーションに対しては、どれだけのインピーダンス変換が必要なのかによって最適なマッチング回路が異なります。これに関する情報は、スミス・チャートを利用して取得します。つまり、インピーダンスのトレースを移動させるためにインダクタまたはコンデンサを追加し、その結果となるスミス・チャートを確認するといった具合です。

【その5】Sパラメータ
Sパラメータは、アンプ、フィルタ、伝送線路といったRFコンポーネントの振る舞いを表現するために使用される一連の電気的パラメータです。回路またはシステムでそれらのコンポーネントを使用した場合の性能を予測するために用いられます。通常、Sパラメータの値はベクトル・ネットワーク・アナライザのような特別な装置を使って測定します。
Sパラメータは、散乱行列によって定義されます。同行列は、デバイスまたはシステムの入力信号と出力信号の関係を表します。2ポートのモデルでは、以下に示す4つのSパラメータ(S11、S12、S21、S22)が使用されます。
- S11:デバイスの反射係数を表します。入力ポート(ポート1)における反射波と入射波の比が反射係数です。つまり、これは先に解説したリターン・ロスに相当します。
- S21:透過係数と呼ばれるものであり、出力ポート(ポート2)における透過波と入射波の比を表します。つまり、先に解説した挿入損失に相当します。
- S12:逆透過係数です。S21と同様のものですが、入力ポートにおける値である点が異なります。
- S22:S11と同様のものですが、出力ポートにおける値である点が異なります。

以上、RFマッチング回路について知っておくべき5つの事柄について説明しました。これらについてしっかりと理解できていれば、マッチング回路とは何か、なぜそれが必要なのか、その性能をどのように評価し、どのように改善すればよいのかといったことがわかります。また、そのような一般的な経験則を把握していれば、マッチングに関する会話に参加するきっかけが生まれます。例えば、リターン・ロスが10dB未満だという話を聞けば、その回路には問題があるということがわかるからです。つまり、RF回路という不可思議なものに対処可能な技術者への道を着実に歩んでいることになるのです。