著者:田中秀樹
アナログ・デバイセズには一風変わったデバイスが存在します。その中の一つにiButtonという物があります。見た目はステンレスに覆われたボタン電池の形状をした物で、その中には温度センサーや湿度センサーが内蔵されており、一定時間ごとに測定したデータをメモリに格納しています。用途としては、クール宅配便の庫内温度を管理したり、植物のビニールハウス内の温度と湿度の履歴を記録したりと様々な用途で使われています。もちろん内蔵しているメモリの容量には限界があるので、ある程度データが蓄えられたらPC等に転送してデータを格納し、評価や解析をする必要があります。
通常、データを転送するためには、データ、クロック、電源、GNDの4種類の信号線が必要になるのですが、このボタン電池形状のパッケージだと、プラス電極とマイナス電極の2つしかありません。そこで、その問題を解決するために1-Wireと言われる技術が使われています。文字通り1本の線で通信するのですが、その内訳としては、データ、クロック、電源供給(微弱)を1本の信号線で伝送し、GND線も加えると2つの電極で足りる事になります。
iButtonは堅牢なパッケージの為、様々な場所での利用が考えられますが、いくつか注意点があります。過去にテクニカル・サポートに寄せられた質問の中から、参考になりそうな例をいくつかご紹介します。
Q1: 体温計として使えますか?
A1: お勧め出来ません。皮膚に接触させる部分は片面のみになり、他の面は違う温度の空気に触れていることになるので、正確な体温を測定する事は出来ません。
Q2: 水中の温度を測りたい
A2: iButtonはIP56に適合しており、耐水性はあるが防水では無いので、オプションで用意してある防水カプセルDS9107に格納する必要があります。
このカプセルは耐燃性や耐薬品性も持ち合わせているので、様々な用途に使う事が出来ます。
Q3: 海底とか圧力釜などの高圧環境下や真空での利用は出来ますか?
A3: 常圧下で使用する事が前提となっており、保証外の使い方となります。
Q4: トラックの振動や磁場の影響は受けますか?
A4: 運送中の振動や通常の磁場では影響はありません。
Q5: 周囲温度が内部の温度センサーまで到達する時間はどの位かかりますか?
A5: 90%到達までの時間は、およそ300秒以内となります。
また、1-Wireはプリンタカートリッジ等のセキュリティ管理用途にも使われるため、iButtonもドア等の個人認証用の鍵としても使われていたようです。
今ではカードやスマホを利用したNFC (Near Field Communication)が主流になっていますが、そんな時代もあったのですね。