著者:alecp
電動化を目的とした新たな技術の登場に伴い、それに関連する課題も数多く浮上しました。それらの課題を解決するために、実に様々な取り組みが行われてきました。その結果として、新たな高電圧対応のシステムを構築するための基礎が築かれつつあります。例えば、電気自動車(EV)では、400Vや800Vのバッテリ・パックが使用されるようになりました。その結果、EVの航続距離を延ばすことが可能になり、よりサステナブルな移動手段を手に入れられるようになりました。また、半導体の分野では、窒化ガリウム(GaN)や炭化ケイ素(SiC)をベースとするイノベーションが生み出されました。それらの材料を使用すれば、高電圧に対応する半導体の性能や効率を改善することができます。結果として、より効率的なスイッチや充電回路が実現されました。加えて、高電圧を検出する技術が進歩したことから、より正確なモータ制御と測定が可能になりました。更に、パワー・エレクトロニクスの分野では、高電圧に対する絶縁技術の改善が図られています。そうした技術を採用すれば、より安全でコンパクトなパワー・ソリューションを実現できます。そうした各種の進化を支えているのが、測定や制御に用いられる回路です。そうした回路も高電圧に対応できるものでなければなりません。
回路設計者は、高電圧での動作がもたらす課題について検討する必要があります。あらゆる電気デバイスには定格電圧が存在します。つまり、それを超えるとデバイスが完全に破損するか、自身を保護するために内部的なクランプ機能が働く(すなわち標準的な動作を停止する)最大電圧が定められているということです。このようなことに配慮し、回路設計者は慎重に作業を進めなければなりません。高電圧に対応する回路を構築するには、そうした制約を安全に回避するための工夫を凝らした手法やソリューションが必要です。
オペアンプは、アナログ回路で多用されるビルディング・ブロックです。これを使用することにより、電圧や電流の駆動/検出を担うシグナル・チェーンを構築することができます。また、工夫を凝らした方法でオペアンプを使用すれば、高電圧のシグナル・チェーンを構築することも可能です。
アナログ・デバイセズは、高電圧に対応可能なオペアンプ製品を数多く提供しています。「ADHV4702-1」(220V)、「LTC6090」(140V)、「ADA4700-1」(100V)、「ADA4870」(40V)などがそれに当たります。これらのオペアンプでは、高電圧への対応という課題がICのレベルであらかじめ解決されています。つまり、特に工夫を凝らすことなく、そのままの状態で高電圧に対応できます。
一方、低電圧で動作するオペアンプを使用することでも、高電圧に対応するシグナル・チェーンを構築できるケースもあります。その場合、回路において工夫を凝らした方法でオペアンプを使用する必要があります。
非常に高い電圧レベル(> 220V)に対応できるオペアンプ製品の種類は限られています。そのため、システムの設計と実装はやや難易度が高くなります。ディスクリート構成でアンプを実装するというのも選択肢の1つです。ただ、そのような電圧で使用できるディスクリート・トランジスタもさほど多いわけではありません。しかも、その方法では、集積度の高いオペアンプ製品が提供する多くのメリット(性能、サイズ、許容誤差)が得られなくなります。
本稿では、ディスクリート・トランジスタで構成したブートストラップ回路を電源に適用することで、既存のオペアンプを活用する方法を紹介します。そのような回路を慎重に設計すれば、より広い出力電圧範囲を実現することが可能になります。
図1に示したのが、上記の方法で実装した回路の具体的な例です。この回路では、ADHV4702-1に、MOSFETをベースとするブートストラップ回路を適用しています。それにより、出力電圧に応じて同オペアンプの事実上の電源電圧を変化させます。このようにすれば、同オペアンプ単体が許容可能な220Vよりも広い出力電圧範囲を実現できます。
図1. 電源にブートストラップ回路を適用したオペアンプ回路。本来の最大電源電圧よりも高い電源電圧に対応して動作させることができます(ADHV4702-1のデータシートの図65を転載:https://www.analog.com/media/en/technical-documentation/data-sheets/adhv4702-1.pdf)
この回路では、±VSに±220Vといったより高い電源電圧を適用することができます。RFB = RGとした場合、このオペアンプのクローズド・ループ・ゲインは2V/Vに設定されます。RTOP = RBOTとなるように各コンポーネントを選択すると、オペアンプの実質的な電源電圧は、±VSと出力のほぼ中間の値になります。つまり、オペアンプに最大電圧である220Vを超える電圧がかかることはありません。このように回路を構成すれば、この高電圧対応のオペアンプの出力電圧範囲は、事実上倍増することになります。
トータルの出力振幅は、MOSFETの最大ドレイン‐ソース間電圧(VDS)と、オペアンプの最大電源電圧によって制約されます。図1の例で200Vに対応するMOSFETを使用すれば、220Vに対応可能なADHV4702-1の実効的な出力振幅を420Vまで増幅することが可能です。つまり、この高電圧対応のオペアンプの電圧駆動能力は大幅に拡大されます。
高電圧を使用する分野が拡大するに連れて、新たなアプリケーションを実現するために必要な回路の種類も増えることになります。本稿で示したのは、高電圧を使用するシグナル・チェーンでオペアンプをよりうまく活用するための方法の1つです。今後、高電圧に対応するオペアンプが更に改良されれば、利用可能な電圧範囲は更に拡大するでしょう。アナログ・デバイセズは、今後もより高い電圧に対応可能なオペアンプ製品を開発していきます。