LTspice®︎で、ギガスピードに対応する絶縁設計の最適化を図る

LTspice®︎で、ギガスピードに対応する絶縁設計の最適化を図る

著者:aine

ホリデーのために料理をしたことのある人なら、うまくブレンドされたスパイスが料理を「good」から「great」のレベルに引き上げることを知っているはずです。そして、作っているのがギガスピード(Gigaspeed)に対応可能な絶縁型のLVDS(Low Voltage Differential Signaling:低電圧差動伝送)であるなら、皆さんはぴったりの記事に辿り着いたと言えるでしょう。今回は、その設計を最適化することに役立つアナログ・デバイセズの“伝統的なレシピ”を紹介します。 ひとつまみのスパイスとして必要なのは「LTspice®」だけです。

前回の記事では、ギガスピードに対応するアプリケーションに適した電源ソリューションについて説明しました。それにより、ギガスピードに対応する絶縁デバイスとそれに関連する電源ソリューションを選択する方法をご理解いただけたはずです。次に行うべきことは、設計を最適化して要件を満たせるようにすることです。そのために役立つ強力なツールが「Analog Design Center」で提供されているLTspiceです。LTspiceには、アナログ・デバイセズの多くの製品のモデルが用意されています。また、使いやすいユーザ・インターフェースも提供されます。

では、LTspiceを使用すると、どのようなことがわかるのでしょうか。今回は1つの製品のモデルを例にとり、LTspiceの活用方法を紹介します。

LTspiceにより、ADN4620を使用する回路を最適化 

ADN4620」は、LVDSに対応するアイソレータです。この製品のモデルは、LTspiceの最新アップデートで利用できるようになりました。各製品のモデルは、あらかじめシミュレーションに必要なデータが入力されているテスト・ベンチと共に提供されます。それを使用することにより、各製品の全体的な性能を容易に把握することができます。まずは、LTspiceの「Component」の画面で「ADN4620」を検索してください。

Screenshot of LTspice test bench

Screenshot of a circuit diagram in LTspice test bench

LTspiceで提供されているADN4620用のテスト・ベンチ

ADN4620のモデルを使用すれば、達成可能な全体的な性能を容易に把握できます。また、あらゆる絶縁バリアを介した高速信号の完全性(インテグリティ)を簡単に確認することが可能です。高速信号を扱う際には、データシートに記載されている伝搬遅延スキューなどの仕様を必ず確認しなければなりません。

LVDSに対応するアイソレータでは、伝搬遅延の仕様を確認することにより、信号がどの程度の速度で伝送されるのかを把握できます。伝搬遅延は、特に信号のタイミングと同期に関連する指標です。伝搬遅延の誤差は、システム全体のタイミング・エラーにつながる可能性があります。

また、LVDSでは差動ペアに2つの信号を入力します。それら2つの信号の伝搬遅延の差をスキューと呼びます。一方の入力のエッジに対するもう一方のエッジのズレがスキューです。その値は、シミュレーション結果から推定できます。

Screenshot from the LTspice simulation, showing the readout for propagation delay.

 Screenshot of a graphic output in LTspice, showing propagation delay between the input and output signals.

LTspiceによるADN4620の伝搬遅延のシミュレーション

ADN4620はLVDS用のアイソレータですが、PECL(Positive-Referenced Emitter-Coupled Logic:正基準エミッタ結合論理)の信号やCML(Current-Mode Logic:電流モード・ロジック)の信号にも簡単に対応できます。LVDS、PECL、CMLのI/Oの構造についてはこちらをご覧ください。
 

LTspiceでアイ・ダイアグラムを生成し、ギガスピードの信号の完全性を視覚化する

高速な信号については、その品質に関する重要な知見を提供する指標が活用されます。それがジッタです。ジッタの値は、信号の理想的なエッジの位置に対して実際の位置がどれだけ揺らぐのかということを表します。ジッタは時間の経過に伴う誤差として定量化できます。

信号の完全性には、ケーブル長、プリント基板の配線パターン、接続方法などに関連する多くの変数の影響が及ぶ可能性があります。LTspiceのアイ・ダイアグラム機能を使用すれば、システムの全体的な性能を容易に視覚化できます。つまり、LVDSに対応するアイソレータを介したギガスピードの信号の完全性を確認することが可能になるということです。それにより、エラーにつながる可能性のある設計上の弱点を簡単に評価することができます。詳細については、「AN-1177」をご覧ください

LTspiceでアイ・ダイアグラム機能を使用するには、まずプロットの水平軸をクリックします。次に、アイ・ダイアグラムのボタンを押すと、ボー・レートの設定画面が表示されます。その設定が終わったら同機能を使用することができます。

ADN4620のアイ・ダイアグラム。LTspiceのデフォルトのテスト・ベンチを読み出すことでパラメータの設定を行っています。
 

次回のトピック - ギガスピードの信号を使用するHDMIアプリケーション

ギガスピードの信号の完全性を維持するためには、最高の性能を達成できるように回路を設計しなければなりません。データの伝送速度が上がるにつれて、信号の完全性と回路の全体的な性能の重要性も高まります。LTspiceによって設計を最適化すれば、性能を表す指標の値を早い段階で取得することができます。このことは、長期的に見れば時間とコストを削減することにつながります。

ADN4620を含むAD462xファミリは、デジタル・ヘルスケア、産業用オートメーション、計測などのアプリケーションでよく使用されています。次回の記事では、それらのアプリケーションにおいて、AD462xファミリがプロトコルに対応する絶縁を実現する上でどのように役に立つのかを明らかにします。また、これらのアプリケーションにおける絶縁の必要性や設計時に考慮すべき主要な事柄について解説を加えます。更に、絶縁型のHDMI(High-Definition Multimedia Interface)アプリケーションの設計/レイアウトに関するヒントやコツを紹介します。

 

ギガスピードに対応する絶縁技術について解説した連載記事はこちらからご覧ください。