著者:Conal Watterson、Brian Condell
今回は、工場内に分散配備されるIOモジュールに関連する話題を取り上げます。前回の記事「気が変わっても大丈夫!」では、スマート・ファクトリにおける柔軟性の高い製造について説明しました。今回の記事はそれに続くものです。
IOモジュールを分散配備するに当たり、センサー/アクチュエータのすぐ近くにリモートIOを再配置するには、エンクロージャを小さくし、IOチャンネルの数を増やさなければなりません。言い換えれば、より小型のリモートIOモジュールを設計し、より実装密度の高いシステムを構築する必要があるということです。その際に鍵になるのは、効率に優れるパワー・マネージメント手法や集積型のソリューションです。本稿では、リモートIOモジュールに必要な電源と絶縁を実現するために提供されている製造企業向けの様々なソリューションを紹介します。
リモートIOモジュールのパワー・マネージメント
一般に、リモートIOを含む産業用制御モジュールの給電には、24VのDC電源が使用されます。モジュール内では、適切なコンポーネントを選択することにより、プロセッサや通信用の回路、アナログ・フロント・エンドなどに必要な電源電圧を適切に生成する必要があります。それだけでなく、電源に関連する障害からシステムを保護するための仕組みを設けなければなりません。また、通常は負の電源電圧も必要になります。レギュレートに必要な外付け部品などによって、電源に関連する回路は非常に複雑になります。
モジュールのフォーム・ファクタを小型化できれば、プリント基板上の実装面積を抑えられます。そのため、外付けのトランス、インダクタ、コンデンサ、抵抗、ダイオードといった部品の数は少なく、サイズは小さいほど都合が良いと言えます。但し、回路の実装密度を高めたい場合には、消費電力を最小限に抑えなければなりません。それには電力効率に優れるソリューションが必要です(基板面積が大きければ、熱は放散しやすくなります。基板面積が小さいデバイスでは発熱量を抑える必要があります)。
ここで、アナログ・デバイセズの電流リミッタIC「MAX17523A」を紹介します。この製品は、過電流と過電圧に対する高い堅牢性を備えています。しかも、サイズはわずか3mm×3mmです。もう1つ、ソリューションの面積の削減に役立つ製品を紹介します。それは降圧レギュレータの「MAX20075」です。この製品はFETを内蔵しており、プロセッサや通信用の回路に必要なより低い電源電圧を生成します。
リモートIOモジュールの絶縁
リモートIOモジュールの内部には絶縁バリアを設ける必要があります。これも重要な要件です。絶縁バリアをまたいだデータ伝送を可能にしつつ、人間と機器の両方を保護するためにあらゆる電流を遮断できるようにしなければなりません。また、グラウンディング(接地)に関連する問題を排除すると共に、システムの性能を高める必要があります(図1)。
図1. 絶縁の必要性
絶縁の手法としては、リモートIOモジュールの構成に基づいて、チャンネル間の絶縁またはグループ絶縁/バンク絶縁を利用することができます。では、チャンネル間の絶縁を使用したモジュールを設計する場合に、最大のトレードオフ要因になるものは何でしょうか。通常、その答えは消費電力とチャンネル密度の関係ということになります。モジュールの小型化とチャンネル密度の向上を進める場合、モジュールの最大消費電力の要件に対応するために、チャンネルあたりの消費電力を削減しなければならなくなります。
絶縁されたチャンネルを追加しなければならない場合や、絶縁型の電源を使用できるので集積型のソリューションは必要ない場合には、スタンドアロン型のアイソレータを使用してもよいでしょう。「ADuM340E/ADuM341E/ADuM342E」は、4つのチャンネルを備えるデジタル・アイソレータです。アナログ・デバイセズのiCoupler®技術をベースとする製品であり、バック・ツー・バックのモノリシックな空芯コア・トランス技術が適用されています。そのため、高いレベルの電磁環境適合性(EMC)性能と絶縁性能が得られます。これらのアイソレータを、デュアルチャンネルのデジタル・アイソレータ「ADuM320N/ADuM321N」と組み合わせれば、絶縁チャンネルの数を6つに増やすことが可能です。これらの製品は、前世代のiCoupler®を適用したアイソレータよりも消費電力が少なく、放射エミッションも低減されています。より高速でより正確なデータ伝送を行いたい場合に最適な製品群です。
給電と絶縁を実現する集積型のソリューション
上述したようなサイズの問題に対しては、別のソリューションで対応することもできます。それは、パワー・マネージメント機能と絶縁機能の両方を備えるICを採用するというものです。そうした製品の例としては、絶縁型のパワー・マネージメント・ユニット(PMU)である「ADP1034」が挙げられます(図2)。この製品を採用すれば、絶縁型の給電と絶縁型のデータ伝送の両方に対応できます。iCoupler技術を利用してフィードバックを実現するので、オプト・カプラを使用する必要はありません。そのため、オプト・カプラの使用に伴う様々な問題を回避できます。また、この製品を採用すれば、システム・コストの削減、基板面積の縮小、複雑さの軽減を図れます。更に、電流伝達率(CTR:Current Transfer Ratio)の低下という問題が解消され、システムの信頼性も向上します。図2の回路では、ソフトウェアによる構成が可能なIOデバイス「AD74115H」を使用しています。このICには負の電源電圧が必要です。その給電を担うADP1034は、絶縁型のフライバック・レギュレータ、降圧レギュレータを内蔵しています。そのため、ADP1034を使用すれば、負の電源を含む2種類の絶縁型電源を小型のフォーム・ファクタで実現できます。一方、データ伝送については、SPI(Serial Peripheral Interface)に対応する高速な絶縁型チャンネルを4つ備えています。それだけでなく、GPIO(General-purpose Input/Output)ベースのより低速な制御信号向けに3つのチャンネルが用意されています。
更に、ADP1034のPPC(Programmable Power Control)機能を使えば、低消費電力のソリューションの最適化を図ることができます。ユーザは、同機能によって、VOUT1(AD74115HのAVDD)をオンデマンドで調整することが可能です。この手法を使えば、特に電流出力モードを利用する場合に、低負荷の条件におけるモジュールの消費電力を最小限に抑えられます。
図2. ADP1034が備える絶縁型の給電機能/データ伝送機能
参考資料
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