モータ音が生じない監視カメラの実現方法

モータ音が生じない監視カメラの実現方法

著者:Brian Kostecka、Michael Jackson

このブログでは、以前、PTZ(Pan-Tilt-Zoom)型の監視カメラの話題を取り上げました。その種のカメラがステッパ・モータ用のコントローラとして旧来型のものを使用していた場合、ぎくしゃくした動きが生じます。このシリーズでは、初回にその問題を解決する方法を紹介しました。ステッパ・モータについては、残念ながら非常に動作音(可聴ノイズ)が大きいという望ましくない評価が下されています。例えば、3Dプリンタが動作している様子を見たことがある方なら、恐らくモータがうなりを上げていることに気付かれたでしょう。監視カメラのアプリケーションでステッパ・モータを効果的に活用するためには、その可聴ノイズを大幅に低減する必要があります。この要件を満たさなければ、侵入者がすぐにカメラの存在に気付いてしまうでしょう。そうすると、侵入者はカメラによって撮影されることを避けながら、自身の目的を達成してしまうかもしれません。それだけでなく、ステッパ・モータから生じる可聴ノイズは別の問題を引き起こす可能性もあります。それは、カメラのビデオ信号に付随するオーディオ信号のフィードを妨げてしまうかもしれないというものです。ステッパ・モータの可聴ノイズは主に2つの要因によって発生します。1つは振動、もう1つは電流リップルです。今回は、まずそれらによる問題を克服するための従来のアプローチについて説明します。その上で、アナログ・デバイセズのTrinamicチームが開発したより先進的な改善策について解説します。同チームの手法を採用すれば、監視カメラの有効活用につながる、より滑らかで静かなステッパ・モータの動作を実現することができます。

【課題1】振動の問題を克服する

一般的な設計では、ステッパ・モータを機械的なステップで動作させます。また、そのステップ数は固定です。通常、1回転あたりの総ステップ数は200です。つまり、1ステップが1.8°に相当します。ステッパ・モータでは、従来はフルステップ制御を使用していました。これは、ステータの相コイルに通電することで磁界を生成し、ロータを次のフルステップに押し進めるというものです(図1では、ロータ端の交互に色をつけた小歯で表現しています)。ただ、ステップ間を移動する際、ロータはいかなる方式の制御も受けません。そのため、ジャーク(加速度の変化)が発生し、それがモータのハウジングに伝わります。その結果、機械的な振動が生じて可聴ノイズが生成されます。

図1. ステッパ・モータの内部機構

その後、フルステップの間の動きを制御するために、マイクロステップという手法が生み出されました。これは、振動によって起きる可聴ノイズの問題を解決するための第一歩だと言えます。この手法では、モータ・ドライバによって制御用の電流を高い精度で生成し、各フルステップ間の中間の位置にロータを移動させます。最も一般的なアプローチでは、1つのフルステップあたり16のマイクロステップを使用します。ここでは、これを「1/16のマイクロステップ」と表現することにします。このアプローチを採用すれば、振動を軽減することが可能です。しかし、振動を完全に排除することはできません。そこで、この問題を更に改善するために、アナログ・デバイセズのTrinamicチームは1/256のマイクロステップを採用することにしました。つまり、従来よりもはるかに分解能の高いモータ・ドライバを開発したということです。これを採用すれば、フルステップの間の動きが極めて滑らかになります。その結果、振動のレベルが大幅に低下し、可聴ノイズの音量も非常に小さくなります。図2は、ステップの分解能を高めることによる効果を段階的に示したものです。フルステップの制御では、駆動電流が急激に変化します。そのため、目標値の付近で振動が発生します。それに対し、ステップの分解能を高めていくと、その度合いに応じて振動が低減していきます。分解能を最大限に高めると、電流波形は滑らかな動作に必要な理想的な正弦波形に近づきます。

図2. ステップの分解能とモータの駆動電流の関係

【課題2】電流リップルの問題を克服する

マイクロステップという効果的な手法をベースとしつつ、次の段階として、モータの駆動電流の波形を可能な限り正弦波形に近づけるべく取り組みが行われています。従来の電流モードのアプローチでは、モータ・ドライバによって電流を監視/調整すると共に、MOSFETのスイッチング周波数を変化させることができます。残念ながら、ステッパ・モータは数mVの測定ノイズをほぼ常に発生させるので、常にスイッチング周波数を変化させる必要があります。しかし、それには可聴ノイズが生じるという望ましくない副作用が伴います。

アナログ・デバイセズのTrinamicチームは、電流ではなく電圧を制御する手法を開発することで、上記の問題を解決しました。StealthChopと呼ばれるこの手法では、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)を適用した制御電圧を使用します。固定周波数を使用するので、スイッチング周波数を変化させることによって可聴ノイズが発生することはありません。図3は、電流制御のモータとStealthChopで制御するモータにおけるコイルの電圧を比較したものです。StealthChopを使用した場合、モータの制御電圧に周波数ジッタは生じていないことがわかります。

図3. 電流制御のモータとStealthChopで制御するモータの比較。左はStealthChop、右は電流制御を使用した場合のコイルの電圧を表しています。

StealthChopを採用すれば、可聴ノイズを抑えるだけでなく、より滑らかなプロファイルの正弦波を生成できるというメリットが得られます。そのため、振動を更に低減することが可能になります。1/256のマイクロステップとStealthChopを併用すれば、PTZ型の監視カメラを有効に活用できます。今回紹介した手法は、振動とノイズの少ない監視カメラを実現するための最適なアプローチだと言えます。

次回は、PTZ型の監視カメラで使用される接続オプションの話題を取り上げます。アナログ・デバイセズが提供するTrinamicのモータ制御ソリューションについてはこちらをご覧ください。