著者:James.Scanlon
電磁環境適合性(EMC:Electromagnetic Compatibility)に対応するためには、電磁界(EMF:Electromagnetic Field)を基盤として設計を行わなければなりません。つまり、電磁界はどのように発生し、どのように作用するのかということを理解しておく必要があります。その上で、近くにある他の電子機器との間で電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)を起こさないようにするためにはどうすればよいのか検討しなければなりません。では、そもそも電磁界とは何なのでしょうか。また、電磁界についてどのようなことを知っておくべきなのでしょうか。
テレビ番組を観ていると、「ゴースト・ハンター」なる人物が登場することがあります。彼らは、「スピリチュアルな動きの兆候は電磁界リーダーを使うことでキャッチできる」などと主張します。しかし、現実の世界はもっと平凡なものです。電磁界については、単に「放射」または「エネルギー」といった言葉を使うことで説明できます。しかし、その影響はゴースト・ハンターが主張するのと同じくらい大きなものだと言えるかもしれません。
電磁界は様々な形で顕在化します。つまり、イミュニティなのかエミッションなのか、過渡的なものなのか定常的なものなのか、伝導されるのか放射されるのかといった具合に異なる形で現れます。ただ、いずれにせよ確かなことが1つあります。すなわち、あらゆる電気製品は破壊的な電磁界を生成する可能性があります。同時に、他の電気製品からエミッション(妨害波)の影響を受ける可能性もあります。
電磁界の概要
その名が示すとおり、電磁界とは、導体内の電子の流れによって生成される電界と磁界のことです。その場合、電界と磁界は互いに直交しています。磁界は、電流が流れる導体(回路)全体を覆います。一方、電界線は、輪軸から伸びるスポークのような形で導体から発せられます。
近傍電磁界と遠方電磁界
1つの製品から発せられる電磁界は、横方向の電磁波を生成します。それが伝播していくと、互いの関係に変化が生じます。発生源である導体の近くに存在する電磁界は、近傍電磁界と呼ばれます。
「近傍」というのは、あいまいな表現であるように感じられるかもしれません。ただ、実際にはその意味はかなり限定的なものになります。近傍電磁界が遠方電磁界に切り替わる「回帰不能点」というものが存在するからです。
ある製品に、インピーダンスが低く、多くの電流が流れる電流ループが含まれていたとします。その製品は、強い磁界とやや弱い電界を生成します。その電流ループから遠ざかるにつれて、磁界の強さは低下していきます。「それは当たり前だろう」と思った方もいらっしゃるでしょう。しかし、距離が長くなることだけが理由で磁界が弱くなるわけではありません。長い距離を伝播する中で、磁界は横方向の電磁波となります。また、電界と磁界の間の比率は回路インピーダンス(値は任意)から377Ωの波動インピーダンスに変化します。この比率は常に一定です。電界はこの比率に達するまで増加する可能性があります。
出典:https://www.researchgate.net/publication/358043946
ここで別の製品について考えてみましょう。その製品の電流ループはインピーダンスが高く、電流は少ししか流れないと仮定します。その場合にも、電磁界は先ほどと同じ反比例の法則に従います。最終的に、電界と磁界の比率は377Ωの波動インピーダンスに収束します。興味深いことに、この収束は、最初のインピーダンスが高いか低いかにかかわらず、対象とする周波数の1/6波長に相当する距離に達するまでに生じます。
この距離を超えると、近傍界とは異なり、電磁的な振る舞いは横波と同じになります。つまり、遠方電磁界になるということです。横波は、様々な近傍界のエミッションとしての直接的な影響を及ぼします。そのため、EMCに関する放射エミッションの試験において、通常はより注視すべき要素になります。
【注意】EMCに関連して主に扱われるのは、DCから可視光波長までの非電離放射線です。それと対照的なものに電離放射線があります。電離放射線の例としては、紫外線、X線、核放射線などが挙げられます。これらは、細胞やDNAに損傷を与えるおそれがあります。この電離放射線については、他のリソースを参照してください。
EMFとEMI
では、電磁界は何に影響を与えるのでしょうか。その答えは様々なですが、間違いなく言えるのは、その影響はかなり大きいということです。
ある製品から見て、その外部に電磁界が存在したとします。それによる望ましくない影響として生じ得るのがEMIです。例えば、誰かが使用している製品/システムからの放射成分が、あなたが使用している製品の敏感な周波数と同調するといったことが起こり得ます。また、製品の中の結合メカニズム(配線パターン/ケーブル)の向きが、特定の種類の干渉を受けやすいというケースも存在します。それらの製品をテーブルの上に並べていたら、一方または両方の製品の動作が停止してしまう可能性があります。
このような理由から行われているのが、EMCの試験です。その試験では、各カテゴリに含まれる製品の電磁エミッションのレベルや、標準的な電磁界のレベルに対する電磁イミュニティ(感度)の測定が行われます。世界中のすべての電子機器がその種の試験に合格していれば、同一環境内でそれらは適切に動作するということになります。そのような状況を期待して規格が定められ、それに準拠することが求められています。
EMCの問題を回避するためには、高価なコンポーネントや複雑なコンポーネントを後から追加しなければならないかもしれません。いわゆるEMC設計とは、そのような状況を回避できるようにあらかじめEMCの要件を満たせる製品を構築することです。その上で、製品単体の試験を行い、その設計によって生じる実際のイミュニティとエミッションを測定します。当然のことながら、その試験は製品を市場に投入する前に実施しなければなりません。
EMCに関する要件を、余裕を持って満たすのは簡単なことではありません。たとえぎりぎりであっても規格を満たしていれば十分だとも言えます。実際、そこから更に改善を施すためには、多くの時間と労力が必要になります。そのため、余裕を持ったレベルを目指すという意欲はそがれてしまう可能性が高いでしょう。しかし、そのような多大な労力をかけることによって得られる効果もあります。一般に、エミッションを低減するための取り組みを行えば、イミュニティも強化されます。逆に、イミュニティを強化する取り組みを行えば、エミッションは低減されます。ぎりぎり規格を満たす製品は、10dB、20dBといった余裕を持つ製品と同等のものではありません。とはいえ、どちらの製品も、電磁界に関する規格を満たすものとして使用が認められることも確かです。