著者:James.Scanlon
コンデンサは、EMC(Electro Magnetic Compatibility:電磁両立性)に関する問題を解消するための最良のツールだと言えるかもしれません。コンデンサの機能は、簡単に言えば次のように説明できます。すなわち、DC信号を遮断しつつ、AC信号に対して低インピーダンスのパスを提供するというものです。また、ICに対して局所的なエネルギー源を提供するといった役割を果たすこともあります。ただ、コンデンサを適切に活用するのは容易だとは言えません。実際、コンデンサを回路に追加すると、意図せぬ副作用が生じることがあります。
この「EMC対策」のシリーズでは、これまでに電子回路の設計においてEMC性能を高めるための方法について触れてきました。具体的には、インダクタ、抵抗、フェライト・ビーズを活用する手法をいくつか紹介しました。ただ、システム内の望ましくないノイズの流れを管理するという観点から言えば、ここまでは最良のコンポーネントについて触れてこなかったことになります。今回は、まずEMC対策におけるコンデンサの基本的な活用方法について説明します。特に、EMI(Electro Magnetic Interference:電磁干渉)の抑制に向けて最適なコンデンサを選択するためには何に注目すべきなのかということを明らかにします。
理想的なシナリオに基づけば、コンデンサのリアクタンスは、以下の式に基づいて一意的な値に定まります。
式1. コンデンサのリアクタンス
つまり、その値は周波数によって決まり、周波数が高いほど小さな値になります。
残念ながら、現実には理想的なコンデンサというものは存在しません。以前の記事で触れたフェライト・ビーズと同様に、現実のコンデンサは理想的なものとは大きく異なります。等価直列抵抗(ESR)や等価直列インダクタンス(ESL)などが存在することから、望ましいとは言えない予期せぬ影響が生じる可能性があります。特にESRとESLは、コンデンサの性能に望ましくない影響を与えることから、「寄生」する成分として扱われています。図1に、現実のコンデンサの等価回路を示しました。
図1. 現実のコンデンサの等価回路
ESRとESLの値は一定ではありません。このことが事態を更に複雑にします。ESR/ESLの値は、コンデンサのパッケージのサイズ、使用されている誘電材料の種類、リード線などの要因に基づいてばらつきます。そのため、現実のアプリケーションでコンデンサを使用する際には、それらの寄生成分について考慮し、回路全体の動作に対して効果的に機能するようにしなければなりません。そのためには、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。
重要なのは、個々のアプリケーションに対して最適なコンデンサ製品を選択することです。その選択にあたっては、コンデンサの共振周波数が鍵になります。共振周波数において、そのコンデンサのインピーダンスは最小の値になります。多くの場合、コンデンサを使用する目的は、AC信号に対して低インピーダンスのパスを提供することです。それはEMIを誘導するパスにもなり得ます。
共振周波数は、コンデンサの容量値(C)とESLの値によって決まります。同周波数において、容量性のリアクタンスと誘導性のリアクタンスは互いに打ち消し合います。その結果、コンデンサのインピーダンスはESRによって決まることになります。図2に、コンデンサにおける周波数とインピーダンスの関係を示しました。ここでは、容量値が100nFで、0603サイズの標準的なコンデンサを例にとっています。
図2. コンデンサにおける周波数とインピーダンスの関係。容量値が100nFで、0603サイズの標準的なコンデンサ「GCJ188R71C104KA01」の例を示しました1。
コンデンサは、自己共振周波数よりも低い周波数領域では容量性の性質を強く示します。その領域では、周波数が高くなるにつれてインピーダンスが低下します。それに対し、自己共振周波数よりも高い周波数領域では、コンデンサは誘導性の性質を示すようになります。その領域では、周波数が高くなるにつれてインピーダンスが高くなります。直列自己共振周波数が不要なノイズの周波数と一致するコンデンサ製品を選択すれば、最大限の効果を得ることができます。回路内で対象とするノイズの最高周波数が、必ず共振周波数以下になるコンデンサを選択してください。
EMCを考慮して設計を行う際には、EMIを除去するために表面実装型のコンデンサを使用してもよいでしょう。EMC対策を行う上では、エネルギーをグラウンドにシャントし、電流ループのサイズを抑えることを目的としてコンデンサが使われることがよくあります。この点に関して言えば、表面実装型のコンデンサは他の種類のコンデンサと何の違いもありません。
ただ、表面実装型のコンデンサには、サイズが小さく、リード線が存在しないという特徴があります。そのため、リード線を備えるコンデンサと比べてはるかにインダクタンスが小さくなります。言い換えれば、他のコンデンサよりも共振周波数が高くなるということです。つまり、高周波数領域で使用するコンデンサとしてはより効果的なものだと言えます。一般に、コンデンサのパッケージまたはケースのサイズが小さいほど、そのインダクタンスは小さくなります。そして、多くの場合、RFノイズはインダクタンスが最も低いパスを伝わります。したがって、最適なコンデンサは、ノイズの周波数における直列インダクタンスが最小で、EMIをシステムから除去するために最も抵抗値が低いパスを提供するものだということになります。
今回は、EMC対策を目的とした使い方という観点からコンデンサの1つの側面に注目しました。EMC対策だけをとっても、コンデンサには様々な活用方法が存在します。今後も、そうした方法を数多く取り上げていきたいと考えています。EMIを抑制するためのコンデンサの選択方法について更に詳しく知りたい方は、筆者にお気軽にご連絡ください。
[1] https://www.murata.com/en-global/tool/simsurfing