著者:石井 聡
以下のような技術問い合わせをいただきました。大変興味深い内容なのでブログとして解説してみましょう。
問い合わせ質問内容
ADA4622-4の反転増幅回路として使用した際の動きについて教えてください。
±5V電源で、RS = 4.3kΩ、RF = 220kΩでIN+(非反転入力)端子をDC 2V固定、IN-(反転入力)端子はRSの前からCカップリングして、1kHz ACの正弦波波形を入力しています。
ここで正弦波波形の振幅を大きくしていくと、当然出力が飽和します。
出力が+5V側に飽和した際、IN-端子が20mV程度へこむ方向に変形しました。
飽和している時間に比例してへこみ量が増減します。IN+端子はDC 2Vのままで乱れていません。
本現象は正常動作でしょうか。またADA4084-4でも同様の動きでした。
OPアンプの出力が飽和するのは単純な動作ではない
OPアンプの出力が飽和する状態というのは、単純な理想OPアンプに近い動作として考えることができません。
図1はADA4622-4の動作を質問にある条件で、LTspiceでシミュレーションする回路です。
この回路は反転増幅率が220/4.3 = -51倍の回路になっています。
SPICEのマクロ・モデルはOPアンプの回路内部をトランジスタ・レベルまで完全に再現したものではなく、かなり簡易的に形成されているものです。
ですので、得られたシミュレーション結果が本来の動作と全く同じかどうかは判断がつかないものです。それでも一つの洞察を導けるものだとも考えることができます。
シミュレーションでも波形のへこみが観測された
図2は図1の回路でのシミュレーション結果で、上から入力電圧(±100mVpkの信号)、OPアンプの反転入力端子の電圧、出力電圧(飽和している)、OPアンプの反転入力端子に流れる電流です。
OPアンプの出力が飽和している状態では、反転入力電流に流れる電流が増加していることがわかります。
想像ではあるが出力飽和により内部バイアス・レベルが変化し、それが前段に伝搬したと考えられる
これは(回路の内部が分からないので)想像とはなりますが、出力が飽和したことにより、OPアンプの内部バイアス・レベルが変化し、それが内部の後段から前段のほうに反映・伝搬し、結果的に入力差動回路のバイアス・レベルが変化したと考えることができます。
また図3はADA4622-4の内部簡易等価回路ですが、このOPアンプは入力差動回路がJFETで形成されていることがわかります。
入力差動回路のバイアス・レベルが変化し、J1, J2のゲート・チャンネル間が順方向に一瞬バイアスされることで、OPアンプの入力バイアス電流が大きく増大していると考えることができます。
これが反転入力端子に接続されている抵抗で電圧降下となり、反転入力端子での電圧変動として観測されることになるわけです。
なおADA4084-4でも同様の動きだったとのことですが、こちらのOPアンプはJFETではなく、NPN, PNPのバイポーラ差動入力回路です。
図1 質問にある条件でADA4622-4の動作をLTspiceでシミュレーションする回路
図2 図1の回路でのシミュレーション結果。上から入力電圧、反転入力端子の電圧、出力電圧、反転入力端子の電流
図3 ADA4622-4の内部簡易等価回路