LTC2983でRTDを3-Wire結線で使用するとき

LTC2983でRTDを3-Wire結線で使用するとき

著者:石井 聡

高精度温度測定システム、LTC2983でのRTDセンサ3-Wire計測と、このICを3-Wire接続として用いることで、ワイヤ抵抗誤差を排除した高精度計測を実現できる話題をご提供します。もともとは、「LTC2983で3-Wire計測をする場合、なぜ励起電流が2倍になるのか」という質問が発端でした。これを最初として上記内容全体をブログとして解説してみましょう。

  • 問い合わせ質問内容

温度測定システム LTC2983を用いて、RTDで温度計測を考えています。

データシートp. 30に励起電流(Excitation Current)について以下の記述があります。

The RSENSE current is 2x the sensor excitation current for 3-wire RTDs

3-Wireの場合は、なぜ励起電流が2倍となるのでしょうか?

また1mAをRTD PT100へ流して測定したい場合、検出抵抗は何Ωにすればよろしいでしょうか?

  • 最初に質問の前半の答えは…

最初に質問の前半の答えを示します。LTC2983のRTD計測において、3 Wire接続だとRTDの両端に接続された個々のチャンネルから励起電流が出力される構成になります。

そのためにRSENSEに流れる電流が設定値の2倍になる、ということです。

これをまず2線(2-Wire)方式における説明から見ていきましょう。

  • まずは2-Wire RTD Configurationについて説明

データシート p. 32に2-WireのRTD計測の説明があります。ここでその説明図、Figure 7と8をまず引用して解説します(図1)。

説明をわかりやすくするために(RRSENSEの下側の端子とRTDの上側の端子が接続されるため)、Figure 8を上に、Figure 7を下に配置しています。

図1 LTC2983のデータシートの2-Wire RTDの説明(上からFigure 8, Figure 7)

1) CHRTD-1 = CHRSENSEは共用されている

2-Wire計計測においては、図1のFigure 7のように、RTDはCHRTDとCHRTD-1に接続されます。CHRTDはグラウンドに接続されます。

またFigure 7のRTD端子2は、CHRTD-1に接続されますが、これとともに、図中に赤枠で囲んだように、「2nd terminal ties to sense resistor (CHRSENSE)」、日本語に訳すと、RTDの端子2はセンス抵抗(CHRSENSE)に接続してくださいとなっています。

これはFigure 8のRRSENSEの下側の端子のことを指しており、またこの端子がLTC2983と接続されるのはCHRSENSEです。

ここで重要なのは「」の中の赤文字の部分で、RTDの端子2はCHRSENSEとも接続されることです。

つまりLTC2983との接続は、CHRTD-1 = CHRSENSEとして共用されていることがわかります。

2) 2-Wire計測と呼ばれる理由は

これからセンス抵抗RRSENSE(参照系)接続としては、CHRSENSE-1のパターン配線(Figure 8の上側)と、CHRTD-1 = CHRSENSEのパターン配線(Figure 8の下側)です。

センス抵抗RRSENSEはLTC2983直近に配置されているとします(つまりリード線などの抵抗成分はない)。

一方、計測系としては、CHRTD-1 = CHRSENSEのリード線配線②(Figure 8の下側ならびにFigure 7の上側)とCHRTDのリード線配線①(Figure 7の下側)となります。

この計測系の2本のリード線がRTDに対して接続されることから、2-Wire計測となります。

3) 励起電流はCHRSENSE-1から流出する

LTC2983の2-Wire計計測においては、Figure 8および7の表記から、励起電流はCHRSENSE-1から流出するように動作していることが分かります。

4) 2-Wire計測ではワイヤの内部抵抗が影響を与える

ここでRTDの端子2からCHRTD-1に接続されるリード②、端子1からCHRTDに接続されるリード①それぞれに、内部抵抗RLEAD(同じ値とします)が存在していることを考えます。

なお、先に示したように、RRSENSEはLTC2983直近に配置されているとします。

励起電流はRRSENSEの上側から下側にまず流れます。ここは基板上のパターン接続なので、接続に流れる励起電流IEXCによる電圧降下は発生しません。

つまり、LTC2983はRRSENSE×IEXCそのものの電圧をセンスすることになります。

つづいて励起電流IEXCはリード②をIC側からRTD側に対してながれ、さらにリード①をRTD側からIC側(グラウンド)に流れます。

つまりLTC2983は、RTDの抵抗値RRTDと励起電流IEXCによる本来の電圧降下RRTD×IEXCと、リード線と励起電流IEXCによる余計な電圧降下RLEAD×IEXCの合計、

    RRTD×IEXC + RLEAD×IEXC

これをセンスすることになります。つまり誤差が生じます。

これはデータシートp. 32にも「The disadvantages of this topology are errors due to parasitic lead resistance.」と記載があります。

  • つづいて3-Wire RTD Configurationについて説明

データシート p. 32に3-WireのRTD計測の説明があります。その説明図、Figure 10と11をまず図2に引用して解説します。

ここでも説明をわかりやすくするために(RRSENSEの下側の端子とRTDの上側の端子が接続されるため)、Figure 11を上に、Figure 10を下に配置しています

図2 LTC2983のデータシートの3-Wire RTDの説明(上からFigure 11, Figure 10)

1) CHRTD-1CHRSENSEは共用されていない

3-Wire計計測においては、図2のFigure 10のように、RTDはCHRTDとCHRTD-1に接続されます。

CHRTDはグラウンドに接続されません。

またFigure 10のRTD端子2はCHRTD-1に接続されますが、(RTDでは同じ端子である)端子3はCHRSENSEに接続されています。

これはFigure 11のRRSENSEの下側の端子のことを指しています。

そしてセンス抵抗RRSENSEの上側、CHSENSE-1がグラウンドに接続されます。

ここで重要なのは、LTC2983との接続は、CHRTD-1と CHRSENSEは共用されないということです。

2) 3-Wire計測と呼ばれる理由は

これからセンス抵抗RRSENSE(参照系)接続としては、CHRSENSE-1のパターン配線(図2のFigure 11の上側)と、CHRSENSEのパターン配線(Figure 11の下側)です。

2-Wireの説明の2)と同様に、センス抵抗RRSENSEはLTC2983直近に配置されているとします(つまりリード線などの抵抗成分はない)。

一方、計測系としては、図2のFigure 10に赤字で示したように、

・CHRTD-1 のリード線配線②(Figure 10の上側)

・CHRTDのリード線配線①(Figure 10の下側)

CHRTD-1CHRSENSE共用されないことからCHRSENSEのリード線配線③

これら計測系の3本のリード線がRTDに対して接続されることから、3-Wire計測となります。

3) 励起電流はCHRSENSE-1から流出する

LTC2983の3-Wire計計測においては、図2のFigure 11および10の表記から、励起電流はCHRTDCHRTD-1から流出するように動作していることが分かります。

これはデータシートp. 34にも「Terminals 1 and 2 tie to the input/excitation current sources and terminal 3 connects to the sense resistor.」という記述があります。

またCHSENSE-1がグラウンドに接続されることからも分かります。

  • 3-Wire計測では励起電流が2倍になる理由は

励起電流はCHRTD-1とCHRTDからそれぞれ流出します。

CHRTD-1から流れ出る励起電流は、CHRTDが入インピーダンス入力であること、またこの励起電流出力もハイインピーダンス出力であることから、この励起電流はCHRTDに流れず、すべてRRSENSE、つまりリード③に流れます。

CHRTDから流れ出る励起電流も、CHRTD-1が入インピーダンス入力であること、またこの励起電流出力もハイインピーダンス出力であることから、この励起電流はCHRTD-1に流れず、すべてRRSENSE、つまりリード③に流れます。

またそれぞれの励起電流IEXCは、データシートのADC ELECRICAL CHARACTERISTICSにあるように、「RTD Excitation Current Matching, Continuously Calibrated, Error within Noise Level of ADC」であり、それぞれでイコールになっています。

この2電流源からの励起電流IEXCが、Figure 11のRRSENSEの下側から上側に向けて、それぞれ流れます。つまりRRSENSEには2×IEXCが流れるということです。

これがこの質問、「3線式の場合は、なぜ励起電流が2倍となるのでしょうか?」の答えです。

  • 3-Wire計測ではワイヤの内部抵抗は影響を与えない

ここで図2のFigure 10に赤で記載したように、

・RTDの端子3からFigure 11のRRSENSEの下側の端子に接続されるリード③

・RTDの端子2からCHRTD-1に接続されるリード②

・RTDの端子1からCHRTDに接続されるリード①

それぞれに、内部抵抗RLEAD(それぞれ同じ値とします)が存在していることを考えます。

なお、先と同じように、RRSENSEはLTC2983直近に配置されているとします。同じく、接続に流れる励起電流IEXCによる電圧降下は発生しません。

またRRSENSEには励起電流IEXCの2倍の電流が流れます。

つまり、LTC2983はRRSENSE×2×IEXCをセンスすることになります。

つづいて励起電流IEXCはリード②をIC側からRTD側に対してながれ、さらにリード①をIC側からRTD側(グラウンド)に流れます。

これにより、

 1) RTDの抵抗値RRTDと励起電流IEXCによる本来の電圧降下RRTD×IEXC

 2)リード線①とCHRTDの励起電流IEXCによる電圧降下RLEAD×IEXC

 3)リード線②とCHRTD-1同一方向の励起電流IEXCによる、逆方向の電圧降下RLEAD×IEXC

(それぞれの励起電流は上記のように等しいため)このうち2)と3)がキャンセルされ、LTC2983では、RRTD×IEXCがセンスすることになります。つまり誤差が生じません。

 

これはデータシートp. 32にも「The 3-wire RTD reduces the errors associated with parasitic lead resistance by applying excitation current to each RTD input. This first order cancellation removes matched lead resistance errors.」と記載があります。

  • 3-Wire RTDでのRSENSEの定数設定

次の質問、「1mAをPT100へ流して測定したい場合、検出抵抗は何Ωにすればよいか」という点を考えます。

RTDにはCHRTDからのみの励起電流が流れますので、1mAをRTDに流したい場合には、データシートTable 29のように、[B17:B14] = [1 0 0 0]を設定します。

センス抵抗RSENSEについては、データシートp. 30の記述に「maximum voltage drop across the sensor or sense resistor is nominally 1.0V」とあり、1Vの電圧降下を超えないようにとなります。

またセンス抵抗RSENSEには励起電流の2倍(2×IEXC)が流れますので、上記の設定では2mAとなります。

ここで電圧降下を1V以下にするには、抵抗値として500 Ω以下を選ぶ必要があることが分かります。