インクリメンタル・エンコーダとアブソリュート・エンコーダ、その使い分けはどうすればよいのか?

インクリメンタル・エンコーダとアブソリュート・エンコーダ、その使い分けはどうすればよいのか?

著者:Richard Anslow、Michael Jackson

この連載では、これまでモータに適用する光学式/磁気式のエンコーダ技術について説明してきました。また、ロボットのアプリケーションで用いるエンコーダの仕様を定義するためには、どのような指標が重要になるのかということについても解説しました。今回は、それらの技術に基づくアブソリュート・エンコーダとインクリメンタル・エンコーダの話題を取り上げます。両エンコーダの仕組みと機能について説明した上で、それぞれの相対的な長所と短所や使い分けについて解説を加えます。

インクリメンタル・エンコーダの仕組み

インクリメンタル・エンコーダは、回転動作に比例するバイナリ・パルスの列を出力します。それにより、開始点を基準としたシャフトの相対位置に関する情報を提供します。コントローラは、シャフトの回転時に生成されるパルスをカウントする処理を行います。それにより、「ホーム」と呼ばれる固定の基準点に対する速度と位置を、エンコーダの分解能(1回転あたりのパルスの総数)に応じて算出することができます。但し、シングルチャンネルのインクリメンタル・エンコーダには、シャフトの回転方向を判別できないという制約があります。方向を判別するには、位相が互いに90°ずれた(直交位相)2つの出力パルスAとBを生成するデュアルチャンネルのエンコーダが必要です。それにより、どちらのチャンネルが先にハイになるのかを監視します。インクリメンタル・エンコーダは振動に対する耐性が高いので、過酷な環境に適しています。一方で、同エンコーダには、システムが一時的な停電に見舞われると、開始点からの相対位置がわからなくなるという大きな欠点があります。そのため、停電から復旧したら、ホームの位置にリセットする処理が必要になります。アプリケーションによっては、このリセットの処理が問題になることがあります。その1つの例が、金属板を精密に切断するために使われるロボット・アームです。この種の機器では、リセットを行うと、元の位置から処理を続けることができなくなります。結果として、原材料が無駄になったり、損傷が生じてしまったりする可能性があります。

図1. インクリメンタル・エンコーダの概要

アブソリュート・エンコーダの仕組み

アブソリュート・エンコーダは、モータ・シャフトが1回(または複数回)回転している際、その位置の正確な座標を提供します。その座標は、固定のデジタル・コードによって表現されます。アブソリュート・エンコーダであれば、停電が発生した際にもシャフトの位置を保持することができます。つまり、シャフトをホームの位置に戻すためにリセットする必要はありません。従って、停電から復旧したらシステムは直ちに動作を再開することが可能です。アブソリュート・エンコーダでは、コードに対応するスリットが刻まれたディスクを使用します。それにより、回転中の各点を一意的に表すバイナリ表現を生成します。ディスクが回転すると、モータ制御システムは定期的にコードを読み取り、それらをマルチビットのデジタル・データに変換します。コントローラは、エンコーダを定期的にポーリングすることで、回転シャフトの位置を検出します。また、複数の読み取り値を使用すればその速度を計算することも可能です。システムが位置の読み取りに失敗することがあっても問題はありません。次の読み取りを行う際、変更されたシャフトの位置の情報がエンコーダから提供されるためです。多くのメーカーは、分解能が12ビットまたは16ビットの標準的なシングルターンのエンコーダを提供しています。なかには、最大22ビットの分解能を備えるハイエンドの製品も存在します。複数回のシャフトの回転を追跡するには、マルチターンのエンコーダが必要です。マルチターンのエンコーダは、プライマリ・ディスクと連動するセカンダリ・ディスクを備えています。セカンダリ・ディスクのコードは、プライマリ・ディスクが1回転するたびにインクリメントされます。一般に、マルチターンのエンコーダは、4096個(12ビット)の位置座標を一意的に提供します。また、最大で4096回(12ビット)の回転に対応します。

図2. アブソリュート・エンコーダの概要

どのように使い分ければよいのか?

インクリメンタル・エンコーダとアブソリュート・エンコーダはどのように使い分ければよいのでしょうか。どちらを使用すべきなのかは、アプリケーションの要件に依存します。インクリメンタル・エンコーダは、速度と方向を監視したい場合に適しています。また、組み込みが容易であり、メンテナンスもほぼ不要です。そのため、あまり複雑ではなくコストを抑えたいアプリケーションに対して適切な選択肢となります。具体的には、工場のコンベアの速度を監視する場合などに使用するとよいでしょう。シングルチャンネル型、直交型のインクリメンタル・エンコーダの使い分けについては、そのアプリケーションにおいて方向が重要であるか否かに依存します。一方、アブソリュート・エンコーダは、CNC(Computerized Numerical Control)に対応する高性能かつ安全性が重視される装置での使用に適しています。図3に示したシグナル・チェーンをご覧ください。これは、一般的に使用される光学式インクリメンタル・エンコーダ向けのものです。アナログ・デバイセズは、図中の各ブロックに対応するIC製品を提供しています。表1に、推奨される製品の一覧をまとめました。

図3. 光学式インクリメンタル・エンコーダ用のシグナル・チェーン

コンポーネント

推奨される製品

MEMS加速度センサー

ADXL371, ADXL372, ADXL314, ADXL375

温度センサー

ADT7320

電源(LDO)

ADP320、LT3023、LT3029

ADC(12/16/24ビット)

AD7380、AD7866、AD7760

高精度のオペアンプ

ADA4622-4

デュアルコンパレータ

LTC6702

トランシーバー(RS-485、RS-422)

MAX22506E、ADM3066E、ADM4168E、MAX22500E

マイクロコントローラ(ADC内蔵)

MAX32672、MAX32662

表1. 図3に示したシグナル・チェーンの各ブロックに適したIC

次回は、モータ用のエンコーダ技術の将来のトレンドについて解説する予定です。