著者:Neal Kurfiss、Michael Jackson
以前、この連載ではADI Trinamicのソリューションを活用してステッパ・モータを設計する方法を紹介しました。その方法を採用すれば、監視カメラの動作音を抑えて、悪意を持つ者に見つからないようにすることができます。また、撮影したビデオがぎくしゃくしたものにならないよう、カメラを滑らかに動かすことが可能になります。今回はテーマを少し変更し、監視カメラの電力と接続性の問題を取り上げます。産業用イーサネットは、それら2つの問題を同時に解決できる非常に優れたソリューションになります。
カメラの供給業者と設置業者、双方の期待に応えるには?
防犯カメラ/監視カメラの供給業者は、最終消費者に対して製品を直接販売することはあまりありません。そうではなく、設置業者のネットワークを活用します。この方法には相応のメリットがあるからですが、デメリットも存在します。それは、設置業者に対して、推奨されるガイドラインを完全に周知徹底させることができないというものです。その結果として、監視カメラが最適だとは言えない状態で設置されてしまうことになります。つまり、トレーニング不足な設置業者が販売にかかわることがあるということです。あるいは、早く作業を終わらせることでコストを削減したいと考える設置業者も存在するでしょう。その結果として、監視カメラの性能やその供給業者の評判が悪くなってしまうこともあるはずです。この問題を緩和するには、供給業者と設置業者双方の期待のバランスをとる必要があります。例えば、両者は以下のようなことを期待します。
- 設置業者は、ベスト・プラクティスを遵守しつつ、素早く設置作業を完了したいと考えます。そのため、制約やコスト(配線など)を最小限に抑えられ、堅牢性が高く設置が容易なソリューションが提供されることを望みます。
- 供給業者は、自社のソリューションを十分に堅牢性が高く使いやすいものにしたいと考えています。その目的の1つは、設置業者に対するアフター・サポートを最小限に抑えられるようにすることです。
- 供給業者は、設置業者が最終消費者に対して自社のカメラを推奨する確率を高めたいと考えています。そのためには、自社の能力を設置業者に信頼してもらえるようにする必要があります。つまり、堅牢性が高く使いやすいカメラを提供する能力を備えていることを示したいと考えています。
接続性に関する課題
防犯カメラ/監視カメラの接続が途絶えるとダウンタイムが生じます。このことは、単に不便だということをはるかに上回る意味を持ちます。場合によっては、人の生死を左右しかねません。したがって、監視カメラは、非常に過酷な環境においても確実に動作できるものにする必要があります。そのためには、ビデオ・データを確実に伝送することが可能な堅牢性の高い通信プロトコルが必要です。
電力に関する課題
監視カメラの複雑さが増すにつれ、設計の細部や電力ソリューションについては調整が可能なものにすることが必要になります。例えば、カメラの筐体をグラウンドに接続しなければならない場合には、ガルバニック絶縁が必要であるかもしれません。しかし、絶縁を適用しなくても済む設計であれば、よりコンパクトなフォーム・ファクタを実現できます。また、フレーム・レートの高いビデオ・ストリームや常時オンの赤外線LEDは消費電力が大幅に増大する原因になり得ます。加えて、現在では1本のケーブルしか使用しないカメラが主流になっています。このことも、電力に関連する要件を更に複雑化する要因になります。
図1. 接続性と電力に関する課題
産業用イーサネットは2-in-1のソリューション、接続性と電力の問題を同時に解消
アナログ・デバイセズの「ADIN1300」は、産業用イーサネットに対応するトランシーバーIC(PHYデバイス)です。パッケージは6mm×6mmの40ピンLFCSP、消費電力はわずか330mWであり、ギガビット・レベルの転送レートに対応できます。RGMII(Reduced Gigabit Media-Independent Interface)でデータを送受信する場合の遅延はわずか290ナノ秒です。よりデータ・レートが低いアプリケーション向けには、5mm×5mmの32ピンLFCSPを採用したより小型の製品を提供しています。それが、10Mbps/100Mbpsの産業用イーサネットに対応するPHYデバイス「ADIN1200」です。こちらも、MII(Media Independent Interface)でデータを送受信する場合の遅延は300ナノ秒に抑えられています。消費電力はわずか139mWです。
図2. ADIN1300とADIN1200の外観
これらのトランシーバーについては、EMC(電磁環境適合性)と堅牢性に関する多様な試験を実施済みです。それにより、以下に列挙する非常に厳しい産業用規格を満たすことが確認されています。
- IEC 61000-4-5のサージ規格(±4kV)
- IEC 61000-4-4のEFT(Electrical Fast Transient)規格(±4kV)
- IEC 61000-4-2のESD(Electro Static Discharge)規格(±6kVの接触放電)
- IEC 61000-4-6の伝導耐性規格(10V)
- EN 55032の放射性エミッション規格(クラスA)
- EN 55032の伝導性エミッション規格(クラスA)
防犯カメラ/監視カメラは非常に厳しい条件にさらされる可能性があります。ADIN1300やADIN1200は、過酷な産業環境に耐えられることが実証されているので、そうした用途に向けた有力な選択肢になります。
PoE向けの電力オプション
データ伝送について、産業用イーサネットを採用すれば、堅牢性と信頼性に優れる接続性が得られることは間違いありません。それだけでなく、もう1つの大きなメリットを得ることができます。それは、接続先のデバイスに対する電力伝送も実現できるというものです。例えば、モータやカメラ、照明といったあらゆるコンポーネントや、ダウンストリームの(より低電圧の)PMIC(Power Management Integrated Circuit)に対して電力を供給することが可能です。それに向けた選択肢として、アナログ・デバイセズは3種のPoE(Power Over Ethernet)ソリューションを提供しています。以下、それぞれについて説明します。
【PoE向けのオプション1】
非絶縁型の電源を使用できる場合、「LT4293」と「LTC7801」の2つのコントローラを使用したソリューションが適しています。この受電機器(PD:Powered Device)向けのソリューションは、最大100Vの過電圧スパイクに耐えられ、60WをサポートするIEEE 802.3btに対応可能です。また、非常に堅牢性が高く、大きなトランスを使用しなくて済むので、極めてコンパクトなシステムを実現できます。
【PoE向けのオプション2】
2つ目のソリューションは、電気的な絶縁を適用し、筐体のグラウンドへの接続やその他のハードワイヤードの接続を可能にします。このソリューションでは、「LT4295」によってPD向けインターフェースと電圧レギュレーションを管理します。同ICのフライバック設計オプションにより、回路の複雑さを更に緩和することが可能になります。
【PoE向けのオプション3】
12Vの電源ラインに対する電力負荷が小さいカメラについては、設計を更に簡素化することができます。「LT4269-1」は、PDコントローラと電圧整流器として機能する受動ダイオード・ブリッジを使用します。それにより、25Wに対応するIEEE 802.3at向けのソリューションを構成できます。
信頼できるエキスパートによるサポート
PoEは、どのようなケースにも対応できる汎用的なソリューションではありません。アナログ・デバイセズは、システムに関する専門知識と広範な技術ポートフォリオを有しています。そして、様々なカメラの設計に対し、電力と接続性の面で最適なソリューションを提供しています。当社をパートナーとして選択すれば、防犯カメラ/監視カメラの設計者に対して大きなメリットがもたらされます。本連載の今後の記事では、この種のアプリケーションでGMSL(Gigabit Multimedia Serial Link)の固有の機能を活用する方法について説明する予定です。